2045年3月22日(土曜日)

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金融

家計の平準化で保険失効減る、月額課金型が主流に

デジタル円と基礎給付金が収入変動を吸収、生命保険は年払いから常時精算へ
2045年3月28日 5:00

生命保険の販売現場で、契約の主戦場が保障内容から徴収設計に移っている。第一生命未来設計、かんぽネクスト、住友生命リンクスなど大手各社は2024年まで主流だった月払いや年払いを見直し、デジタル円口座と連動する「常時精算型」商品を拡大している。背景にあるのは、基礎給付金と高齢就労収入、短時間就労の報酬が家計に細かく流れ込むようになり、保険料も月単位ではなく日次・週次で回収した方が失効率を抑えられる構造に変わったためだ。

金融庁の集計では、2044年度の個人向け生命保険の失効・解約率は契約件数ベースで5.8%と5年前より2.1ポイント低下した。特にデジタル円の自動徴収を組み込んだ小口終身・医療保険では4.1%まで下がる。一方、年払い中心の旧来商品は8%台にとどまる。保険会社側は保障設計の巧拙より、加入者の収入流に合わせて保険料を刻めるかが契約維持の鍵になったとみる。保険業界ではこの変化を「保障のサブスクリプション化」と呼ぶ。

変化を後押ししたのは、2024年導入の基礎給付金の定着と、日銀が主導したデジタル円の条件付き自動引き落とし機能だ。受給者は給付金着金時に生活必需支出の優先順位をあらかじめ設定でき、保険料は家賃、電力、通信に次ぐ第4順位に置かれる例が増えた。三菱UFJ信託銀行によると、単身高齢者と外国人定住世帯では、月末にまとめて支払う方式よりも、入金のたびに数百円ずつ徴収する方式の方が残高不足率が3割低い。保険は金融商品である以前に、家計の流量設計の一部となりつつある。

この副作用として、保険商品の比較軸も変わり始めた。従来は予定利率や解約返戻金が重視されたが、足元では徴収停止時の保障猶予日数、就労報酬が減った際の自動減額ルール、多言語対応の請求UIが契約獲得の決め手になっている。外国人居住者が480万人に達したことで、保険募集人の説明能力より、アプリ上での自動翻訳精度と就労在留資格の変化に応じた保障継続条件の明瞭さが重要になった。明治安田デジタルはベトナム語、インドネシア語を含む14言語対応を前面に出す。

産業面の波及も小さくない。徴収の細分化で保険会社の資金流入は平準化し、国債や超長期社債を前提とした運用モデルの見直しが進む。日本生命総研は、日次徴収型契約の比率が個人新契約の6割を超えると、保険会社全体の月末資金偏在額が2040年比で4割縮小すると試算する。資金繰りは安定する半面、まとまったキャッシュを前提にした代替資産投資の回転は鈍る。家計の平準化が、機関投資家の運用リズムまで変え始めた格好だ。

もっとも、課題も残る。常時精算型は失効を減らす一方、家計が逼迫している実感を加入者に持たせにくく、保障の総額を過大に抱え込む恐れがある。全国消費生活相談ネットには2044年、少額徴収の積み上がりで実質負担を把握できなかったとの相談が1万2800件寄せられ、3年で1.8倍になった。金融庁は4月にも、保険料の30日累計を通知する表示義務を柱とする監督指針改定案を示す。人口減少下の保険業は、売る競争から払い続けられる設計の競争へと軸足を移している。