移民定住で火葬待ち長期化、自治体に『越境葬送圏』
埼玉県北部の行田・熊谷生活圏では、この春から死亡届の受理後に表示される案内画面が変わった。従来の火葬場空き状況に加え、群馬県太田市、栃木県足利市まで含めた広域予約枠が同時表示される。案内は日本語、英語、ベトナム語、中国語など8言語対応だ。背景にあるのは、高齢多死社会に外国人定住が重なったことで、葬送行政が市町村単位では処理しきれなくなっている現実である。
総務省と厚生労働省は28日、火葬・埋葬行政を生活圏単位で共同処理する「越境葬送圏」制度の運用指針を公表した。自治体間で火葬枠、搬送、宗教別区画、遺体安置を共通管理し、住民は居住地外でも同一料金帯で利用できる。先行する首都圏北部、東海西部、北九州の12生活圏では、遺体安置から火葬までの平均待機日数が2043年の5.8日から44年は4.1日に縮んだ。従来の広域連携は災害時が中心だったが、平時の多死対応へ軸足が移る。
制度設計を押したのは、火葬能力不足だけではない。外国人居住者の定住化で、葬送需要の中身が変わった。東京都の調査では、都内死亡者に占める外国籍・元外国籍住民の比率は44年に11.6%と、2020年代後半の約2倍になった。イスラム教徒向けの土葬要請、24時間以内の埋葬慣行、遺体の本国送還手続きなど、従来の戸籍・住民票中心の事務では対応が難しい案件が増えた。死亡届受理後の多言語説明、宗教法人との日程調整、国際搬送証明の電子交付が、窓口業務の新たな比重を占める。
自治体財政への影響も小さくない。火葬場は人口減少下でも統廃合しにくい一方、稼働率の平準化が難しく、単独整備では採算が合いにくい。栃木県佐野市は昨年、群馬・埼玉との3県共同で遺体冷却保管施設を整備し、初期投資72億円を広域公債で賄った。予約・搬送・決済はデジタル円基盤で一元化し、自治体ごとの未収金処理を減らした。総務省は、火葬場単独での建て替えよりも、搬送路を含む生活圏インフラとして整備した方が、20年間の総費用を平均18%圧縮できると試算する。
一方で反発もある。千葉県内では、土葬区画の整備に対し地下水や風評を懸念する住民説明会が紛糾した。宗教対応を進める自治体側に対し、『公費で特定宗教に配慮しすぎだ』との声も根強い。これに対し厚労省は、土葬区画は遮水基準や病原体管理を満たす限定許可とし、一般墓地と切り分ける方針を明記した。行政法務に詳しい一橋大学の田辺真紀教授は『生前の多文化共生は進んだが、死後の手続きは制度の盲点だった。火葬能力の議論に見えて、実際は住民概念の再定義だ』と指摘する。
葬送は目立ちにくい行政分野だが、人口減少社会では生活基盤そのものになりつつある。老朽インフラの統廃合、外国人住民の増加、高齢多死の常態化が重なるなか、自治体の役割は『住んでいる間のサービス』から『亡くなった後まで含めた生活圏管理』へ広がる。学校や物流拠点に続き、火葬場や安置施設も県境を越えた共同資産として再評価され始めた。人口減少への適応は、最終段階の行政手続きからも進んでいる。