相続口座の自動凍結、家賃市場に波紋 高齢単身増で保証会社が審査厳格化
三井住友信託銀行とみずほペイメント決済機構が今月、自治体の死亡届データと金融機関口座を連携する「死亡判定API」の接続先を全国主要行の9割に広げた。名義人の死亡確認後、預金口座やデジタル円ウォレットの送金機能を原則2時間以内に停止する仕組みで、相続資産の流出防止では効果が出ている。一方で、家賃や共益費の自動引き落としが月中で止まり、賃貸住宅の回収実務に新たな摩擦を生んでいる。
東京保証信用、Casa Next、全保連デジタルなど主要賃貸保証会社は、75歳以上の単身入居者向け商品で審査モデルを見直した。焦点は本人の返済能力ではなく、死亡後に家賃回収や残置物処理が再開するまでの「死後空白日数」だ。日本賃貸住宅保証協会によると、単身高齢入居者の死亡後、口座停止から相続人確認、家財処分同意までに要する日数は全国平均で26.4日と、2036年の18.1日から大幅に延びた。
背景には、高齢単身世帯の増加に加え、相続人の居住地分散がある。外国籍住民の定住化や再婚家族の一般化で、相続関係の確認が複雑になった。家主側では家賃滞納より、空室化できない期間の長期化が収益を圧迫する。大和ハウスリアルティマネジメントは4月から首都圏の高齢者向け賃貸約3万戸で、保証契約に死後事務受任契約の有無を反映した新料率を導入する。受任契約がない場合、保証料は平均18%上がる。
この動きは金融の不正防止が不動産賃貸の価格形成に波及した格好だ。従来、保証会社は滞納率、就労継続率、医療・介護依存度を中心に審査してきたが、足元では死亡後手続きの設計力が新たな信用指標になりつつある。オリコフォレントインシュアは、指定NPOや司法書士法人と平時から契約している入居者に対し、保証料を最大12%割り引く。信販系各社では、家賃保証を「生前与信」と「死後執行」の二段階で採点する方式が広がる。
国土交通省と金融庁は、賃貸保証商品が事実上の年齢差別につながる懸念を踏まえ、共同で指針づくりに入った。論点は、死亡後リスクの反映を認めつつ、年齢のみを理由に一律加算しないこと、死後事務受任やデジタル遺言保管の利用者に是正機会を与えることの2点だ。金融庁幹部は「口座凍結の迅速化はマネーロンダリング対策として後戻りしない。賃貸市場側で事務空白を埋める商品設計が必要になる」と話す。
入居者側でも対応が進む。ライフネット生命系の終活プラットフォーム「L-Bridge」では、家主・保証会社・指定受任者に限定開示する死後連絡先登録の利用件数が1〜3月に前年同期比2.3倍となった。高齢化社会で賃貸住宅の確保は居住政策そのものになっている。金融インフラの高度化が、相続や葬送だけでなく、入居審査や保証料率まで書き換え始めた。高齢単身者の住まいは、家賃水準だけでなく死後手続きの準備度で選別される局面に入っている。