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環境

家庭蓄電の逆潮流で街路樹見直し 自治体、日照権より発電量

夏季ピーク抑制へ剪定基準改定 住宅地の緑化政策に転機
2045年3月30日 5:00

東京都杉並区は4月から、区道沿い街路樹の管理基準を改める。従来は景観と歩行安全を主軸にしてきたが、新基準では沿道住宅の太陽光発電量と家庭用蓄電池の放電余力を評価項目に加える。樹冠が日中の発電を阻害し、夕方の系統逆潮流を弱める事例が増えたためだ。自治体の緑化政策が、電力需給の調整力確保という別の行政目的に接続し始めた。

背景には、住宅部門が単なる電力消費者ではなく、小口の供給調整主体へ変わった事情がある。資源エネルギー庁によると、家庭用蓄電池を備えた戸建ては2044年度末で全国812万戸と、戸建て全体の46%に達した。デジタル円連動の時間帯別買い取りが広がり、午後4〜8時の逆潮流単価は晴天日平均で1キロワット時あたり31円と、深夜帯の売電価格の2.4倍になっている。

この結果、樹木の陰がつく時間帯は、不動産価値や住環境だけでなく、家庭収入と地域電力の安定性にも影響するようになった。関西電力送配電と大阪公立大学の共同調査では、南向き道路に面した住宅群で、樹高10メートル超の街路樹が連続する区画は、夏季夕方の蓄電池放電可能量が平均12%低かった。発電不足で昼間充電が積み上がらず、配電網側のピークカット余地が縮むためだ。

自治体側も対応を急ぐ。横浜市は2036年導入の「都市緑陰100万本計画」を見直し、今年度から新植樹種の選定で落葉時期、枝張り、パネル反射率への影響を数値評価する。福岡市は住宅密集地で、街路樹の代替として壁面緑化と高反射舗装を組み合わせる実証を始めた。環境省も今月、自治体向けに「分散電源共生型緑化指針」を策定し、日射遮蔽と発電阻害の両面評価を促した。

もっとも、緑陰機能の後退を懸念する声は根強い。日本造園学会は、猛暑日の路面温度は樹冠直下で最大8度低下し、熱中症搬送の抑制効果も無視できないと指摘する。高齢化率が4割を超える住宅地では、発電量を優先した強剪定が歩行環境の悪化を招く恐れがある。自治体内部でも、環境部局は緑量維持を求める一方、エネルギー部局は系統負荷軽減を優先し、調整が難航している。

政策の焦点は、木を減らすか残すかではなく、地域の時間帯別価値をどう測るかに移りつつある。名古屋市は街区単位で、樹木による表面温度低減、発電減少、医療搬送抑制、売電収入を統合した「生活圏熱電収支」の試算を始めた。街路樹は長く景観資産として扱われてきたが、分散電源が日常インフラになった2045年には、1本ごとの剪定が電力政策と家計を左右する局面に入っている。