2045年4月26日(水曜日)

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文化

追悼配信の事前契約広がる 長寿社会で寺院・芸能事務所に新市場

葬送の広域化を追い風に、肖像権処理と課金設計を標準化
2045年3月31日 5:00

東京都江東区の深川永代ホールでは、通夜の参列者52人に対し、同時接続は614件に達した。画面には日本語のほか英語、ベトナム語、ネパール語の字幕が並ぶ。配信は遺族の依頼ではなく、故人が生前に結んでいた「追悼配信事前契約」に基づく。司会進行文、公開範囲、香典の受け皿、アーカイブの保存期間まで、本人の意思が事前登録されていた。長寿化と単身世帯の増加で、死後の場づくりを生前に外部委託する動きが広がっている。

背景には、葬送の実務が家族単位から契約単位へ移ったことがある。総務省の人口移動調査と民間推計をもとに冠婚葬祭大手6社がまとめた集計では、2044年度の葬儀のうち、喪主と故人の居住地が異なる比率は41%と、2030年代初頭の約1.6倍になった。外国人住民の定住化も重なり、遺族が短期間で会場、通訳、宗教儀礼、配信公開範囲を調整する負担が増した。寺院運営会社や芸能事務所が、生前契約で式次第と著作権処理を束ねる商品を相次ぎ投入している。

変化が及んでいるのは宗教界の収入構造だ。全日本仏教会の調べでは、加盟寺院の昨年度収入に占める法要・葬儀関連のデジタル収入比率は18%となり、2030年代半ばの5%未満から急伸した。読経そのものの配信料ではなく、故人の写真、音声、略歴映像の編集利用に伴う権利処理手数料が収益源になっている。芸能事務所側も、所属タレントの追悼コメントや楽曲利用を単発許諾から定額の葬送ライセンスに切り替え始めた。

制度面では経済産業省と文化庁が今月、葬送デジタル利用指針の中間案を示した。死亡後の肖像・声紋データ利用について、本人の事前同意があれば、葬儀・法要目的に限り簡易手続きで利用できる枠組みを盛り込んだ。家計向け業務支援AIが死亡後手続きの代行に入る例が増え、遺族が知らないうちに配信停止や楽曲差し替えが起きるトラブルが相次いだためだ。指針案は、配信の視聴権を相続財産ではなく儀礼サービス契約として扱う整理も打ち出した。

市場では異業種の参入も目立つ。イオンライフはデジタル円決済と連動した「永代メモリアル・パス」を4月に全国展開し、参列、献花、追悼配信、年忌通知を一つの会員IDに統合する。サイバーエージェント系の映像制作会社は、故人の生前記録をもとに3分以内の追悼短編を自動編集する法人向けサービスを始めた。従来は縮小産業とみられていた葬祭が、通信、決済、権利管理を束ねる文化サービス産業として再評価されている。

もっとも、拡大には反発もある。宗教学者の間では、死者の語りや映像が標準化され、追悼が「編集済みの人格」に置き換わるとの懸念が強い。消費者庁には2044年度、追悼配信を巡る相談が3127件寄せられ、視聴範囲の設定ミスや、故人の旧交関係まで自動通知された事例が目立った。長寿社会では死が遠のく一方、死亡時の事務は複雑化している。誰が送り、どこまで公開するかは、相続や葬送だけでなく文化の設計の問題になりつつある。