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経済

家族割引が縮小、単身向け冷食伸長 長寿単独世帯で外食の原価設計変わる

外食大手、卓数より滞在密度を重視 住宅地では『1人前前提』の調理網
2045年3月31日 5:00

東京都板橋区の住宅地で、ゼンショーネクストが2月に改装した小型店舗「すき家365」は、客席数を従来比3割減らした一方、厨房内の急速冷却設備と持ち帰り棚を倍増した。昼前に来店した71歳の女性は牛皿と減塩みそ汁を店内で食べ、同じ内容の冷蔵パックを2食分持ち帰った。店長によると、来店客の4割が「その場で1食、家で1〜2食」を同時購入する。外食店が食事の場から、単身生活向けの分散調理拠点へ役割を変え始めた。

背景にあるのは、家族単位ではなく単独世帯単位で進む長寿化だ。総務省と厚生労働省の生活圏消費統計をもとに日本経済タイムズが集計したところ、65歳以上の単独世帯のうち、週3回以上外食チェーンを利用する比率は2036年の18%から44年に29%へ上昇した。一方で1回あたり客単価は同期間に940円から810円へ低下した。店内飲食の頻度は増えるが、量は減り、持ち帰りや翌食転用を前提にした買い方が広がっている。

この変化を受け、外食各社は従来の『家族来店で粗利を稼ぐ』設計を見直す。サイゼリヤジャパンは今春、郊外店の一部で4人席を2人席中心に改め、電源付きの短時間滞在席を新設する。日本マクドナルドホールディングスはファミリー向けセットの値引き幅を平均12%縮小し、代わりに夕方以降の1人用高たんぱくセットを拡充した。ロイヤルホールディングスは住宅地のロイヤルホストで、店内調理後に冷却し36時間品質保証する『明日分メニュー』を始める。

影響はメニューだけにとどまらない。家族割引の縮小で、従来は来店人数が多いほど有利だった原価配分が崩れ、厨房運営は卓数より滞在密度の最適化が軸になる。単身客は会話時間が短く回転率は高い半面、食後の服薬や業務端末利用で滞在が伸びる時間帯もある。ワタミは店舗AI業務システムで客の年齢層、歩行速度、注文後の追加率を分析し、調理着手を秒単位で調整する。『満席』より『厨房の波を平らにする』ことが利益率を左右する構図になった。

食品メーカーにも波及する。味の素冷凍食品やニチレイフーズは、外食向け半製品の規格を家族盛りから1.2〜1.8食相当に細分化した。背景には、単身高齢者が完全な1食分ではなく『今食べる分と明朝分』を同時に求める需要がある。従来の大袋は値ごろ感があっても廃棄率が高く、購入をためらう層が多かった。容器も深さより片手で持てる横広形が主流になり、物流現場では保冷箱の規格見直しが進む。

政策面では、農林水産省と経済産業省が4月にも公表する『単独世帯食インフラ指針』が焦点になる。小売り、外食、宅配をまたいで少量・高頻度供給を支える設備投資を補助対象に加える方向だ。政府内では、食の問題を栄養ではなく流通の問題として扱う見方が強まっている。家で料理しない高齢単身者を『支援対象』とみなす発想から、地域の需要密度を支える標準顧客とみる発想への転換で、商圏分析や出店戦略も変わる。

もっとも課題もある。単身客向けへの最適化が進みすぎれば、子育て世帯や多人数来店の負担感が増し、外食が家庭の代替インフラとして持っていた包摂性を損ないかねない。外食産業総合調査機構は、客席再編を実施した店舗で6歳未満同伴客の利用が平均8%減ったとする。高齢単身の増加は確実な需要だが、外食が『誰の生活基盤か』を狭く定義すれば、次の需要を自ら削る。各社は収益改善と社会的機能の両立を迫られている。