花粉少ない街路樹に転換加速 嗅覚補助の普及で植栽評価が再編
東京都杉並区は2045年度、区道沿い街路樹の更新指針を改定し、スギ、ヒノキ系統に近い高飛散種の新規採用を原則停止した。代わりに雌株中心のイチョウ改良種や低花粉ケヤキ系統を標準樹種に据える。背景にあるのは、春先の花粉症対策そのものだけではない。嗅覚補助端末の普及で、花粉飛散期ににおい知覚が過敏化し、駅前や商店街の滞留時間、飲食需要、屋外イベント集客にまで影響が及ぶようになったためだ。
環境省と総務省の共同調査によると、嗅覚補助端末を日常利用する15歳以上は全国で3120万人に達した。微弱なにおいの増幅機能を持つ機種では、花粉飛散日に鼻粘膜刺激を不快と感じる利用者が非装着者の1.8倍に上る。自治体がこれまで使ってきた植栽評価は、日陰形成、二酸化炭素吸収、維持費、景観の4軸が中心だったが、ここに『鼻アレルゲン負荷指数』を加える動きが広がる。福岡市、さいたま市、仙台市は今春から道路設計の評価票を改めた。
変化が先に表れたのは商業地だ。三井不動産とJR東日本都市開発が2039年以降に再整備した首都圏8地区を分析すると、花粉高負荷街区では3〜4月の歩行者回遊時間が平均12%短い。香り演出を売りにしてきたベーカリーやコーヒー店では、嗅覚補助端末が花粉刺激を拾うことで食品香気の評価が下がり、客単価が5%前後目減りした例もある。これを受け、沿道の植栽選定が商業賃料査定に反映され始めた。
苗木生産側も対応を急ぐ。住友林業グリーン、タキイ種苗、北海道森林研究機構は、低花粉・低臭気の都市樹種を束ねた『都市植栽3.0』規格を今夏に立ち上げる。樹木の生育速度ではなく、花粉飛散量、落葉清掃負担、におい干渉、送粉昆虫への影響を一体評価する。街路樹は長く景観財とみなされてきたが、いまや歩行データと売上高を左右する都市インフラに近い。樹種の選択は造園部門だけで完結しなくなった。
もっとも、低花粉化一辺倒には反発もある。都市生態学者からは、雄株回避だけを優先すると遺伝的多様性が損なわれ、猛暑や病害への耐性が落ちるとの指摘が出る。養蜂団体も花粉源の急減を懸念する。国土交通省は今月、道路緑化指針の見直しに着手し、花粉負荷低減と生物多様性確保を両立する『分散植栽モデル』の標準化を検討する。街路樹政策は、日陰と景観を巡る議論から、感覚環境と商業生産性を含む設計へと軸足を移しつつある。