2045年4月26日(水曜日)

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テクノロジー

見守り端末の常時録画離れ進む 介護住宅で『短期記憶型』が標準に

家族同意より保険料率が普及後押し、映像保存は例外管理へ
2045年4月5日 5:00

東京都足立区のサービス付き高齢者向け住宅「リバーサイド綾瀬」では、居室天井の見守り端末が転倒や長時間の無動作を検知しても、平時の映像は残さない。端末内で30秒前後の循環記録を持ち、異常判定時だけ前後3分を暗号化保存する仕組みだ。運営する東都ケアリンクは今春、都内18施設の全4300室で同方式に切り替えた。施設長は「入居相談で最も多いのは介護の質より、どこまで見られるのかという質問だ」と話す。

背景にあるのは、家庭用・施設用を問わず見守り機器の評価軸が「検知精度」から「記録最小化」へ移ったことだ。経済産業省と厚生労働省が2039年に策定した生活支援機器データ最小化指針を受け、主要損害保険会社が保険料率を見直した。東京海上みらい、MS&ADネクスト、第一共生損保の3社は2044年度から、常時保存を伴わない短期記憶型の施設賠償責任保険料を従来比8〜14%引き下げた。映像漏洩時の賠償額が抑えられるためだ。

調査会社メディア・シグナル総研によると、全国の高齢者施設で使う見守り端末のうち、平時映像を24時間以上保存する比率は2040年の62%から2044年に21%へ低下した。代わって伸びたのが、端末内で一時保持し、異常時だけ外部保存する機種だ。導入比率は同期間に19%から58%へ上がった。メーカー各社も設計を改め、パナソニックコネクトケア、セコム・ライフロジクス、NEC生活基盤は昨年から、保存なしを初期設定にした業務モデルを主力に据える。

変化は介護現場の運営実務にも及ぶ。常時録画型では、家族からの開示請求、職員の私的会話混入、外国人介護人材の居室対応時の肖像同意など、法務負担が重かった。短期記憶型では保存対象が事故前後に絞られるため、施設のデータ保護責任者が扱う案件数は減る。全国介護事業者協議会によると、見守り映像関連の開示・削除対応に要する月間業務時間は1施設あたり平均31時間と、常時録画中心だった2041年比で4割減った。

一方、捜査や虐待検証で証拠が残りにくくなるとの懸念は根強い。警察庁は今年2月、介護事故・虐待の疑いがある場合に限り、施設側が端末の循環領域を即時凍結し保全できる運用指針を都道府県警に通知した。ただ、凍結判断が現場任せでは証拠散逸を防ぎにくいとの指摘もある。日本弁護士連合会は、重大事故時に限って保存期間を24時間へ自動延長する『事象連動保全』の標準仕様化を求めている。

見守り機器はこれまで、高齢化と人手不足を補う装置として論じられてきた。足元では役割が変わりつつある。問われているのは、どこまで見えるかではなく、どこまで残さないかだ。人口減少下で介護の自動化は後戻りしない一方、長寿化した入居者は単なる被介護者ではなく、就労や資産管理を続ける生活者でもある。監視の強さより、忘れる機械を選ぶことが、施設の競争力になり始めた。