配達先認証の統一進む 宅配ボックス、広告媒体から与信設備に
東京都江東区の中規模マンションでは、1階エントランス脇の宅配ボックス前に朝から配送アンドロイドが列をつくる。荷物を入れる前に確認するのは空き容量ではない。管理組合が導入した「受取先認証ID」の有効性だ。各戸の支払い履歴や長期不在情報、死亡・転居の行政連携データが匿名加工された形で反映され、配送会社はそのIDに応じて置き配、要本人確認、出荷保留を自動で切り替える。宅配ボックスは保管設備から、受け取り能力を示す社会インフラへ性格を変えつつある。
背景にあるのは、小口商取引で膨らんだ未回収コストだ。日本通信販売協会と主要物流6社の集計によると、後払い・着荷後決済商品の未回収率は2044年度に2.8%と、2030年代後半の1.6%から上昇した。単身高齢世帯の増加に加え、越境転居や相続口座凍結の即時化で、受け取り後に決済不能となる例が増えたためだ。再配達率は全国平均で7.9%まで下がった一方、配送完了後の代金未回収や返品不能の損失が表面化し、事業者の関心は「届けられるか」から「回収まで完結するか」に移っている。
この変化を商機とみるのが不動産・設備各社だ。大和ハウス工業は新築賃貸向けに、受取先認証IDと連動する宅配ボックス標準仕様を6月から全面採用する。パナソニック エレクトリックワークスは、本人生体確認とデジタル円の仮押さえ機能を組み込んだ機種を発売した。従来は空き区画数や冷蔵対応の有無が売り文句だったが、足元では「未回収抑制率」や「誤配時の責任分界」が営業資料の中心になっている。賃貸仲介会社の間では、宅配設備の認証水準が入居審査や家賃査定に与える影響を数値化する動きも出てきた。
小売り側の対応も速い。アスクル、楽天生活圏、イオンネクストは今春から、受取先認証IDの等級に応じて決済手段を変える運用を広げた。低リスク先には試供品同梱や後払いを維持し、高リスク先ではデジタル円即時引き落としか共同受取拠点への配送に限定する。結果として、同じ商品でも配送先によって購入条件が変わる事例が増えた。広告業界にも余波が及ぶ。宅配ボックス扉面はかつてマンション内広告の有望枠とされたが、認証端末やカメラ、封印ログ表示に面積を奪われ、媒体価値は低下している。
国土交通省と経済産業省は3月、宅配設備の認証連携仕様を定める「受取インフラ相互接続指針」を公表した。法的義務ではないが、補助対象となる共同住宅や商業施設は準拠が事実上の条件となる。狙いは物流効率化だけではない。高齢単身者や外国人居住者が増えるなか、配送拒否や過剰な与信排除が広がれば生活必需品へのアクセス格差が生じかねないためだ。政府は認証IDの算定項目を開示対象とし、死亡・医療・国籍情報の直接利用を禁じた。
もっとも、利便性と排除の境目はなお曖昧だ。消費者団体は、過去の未回収歴が長く残れば事実上の「住所スコア」になると警戒する。物流大手の幹部は「受け取り能力の可視化なしに無人配送網は維持できない」と話す。一方で、地方では共同受取拠点しか選べず、買い物弱者対策と逆行するとの指摘もある。人口減少下で配送網を維持するコストは上がり続ける。玄関前の箱に求められる機能は、荷物の受け渡しから信用の仲介へと広がり始めた。