集合住宅で『夜間給湯停止』広がる 計算資源向け送電優先で管理規約見直し
東京都江東区豊洲の築18年の分譲マンションでは、この春の管理規約改定で午前1〜4時の共用給湯ポンプの定常運転を原則止めた。各戸の小型蓄熱槽に夕方までに湯をため、深夜は再加熱を抑える。背景にあるのは、湾岸部で増設が続く計算資源向けデータセンターへの送電余力確保だ。住民の関心は節電そのものより、深夜の湯切れや浴室乾燥の使い勝手だったが、管理組合は「電力契約の維持費上昇の方が重い」と判断した。
変化は首都圏の一部にとどまらない。国土交通省と資源エネルギー庁が3月にまとめた共同調査では、データセンター集積地域から半径10キロ圏の集合住宅のうち、23%が時間帯別に給湯・蓄電・空調を統合制御する設備更新を検討し、8%は既に導入した。大阪北港、千葉ニュータウン、福岡アイランドシティでも同様の動きが出ている。深夜電力が安いという2020年代の家計感覚は薄れ、今は「深夜に動かさない設備」が管理費を下げる局面が増えた。
政策面では、経済産業省が2039年度に始めた「地域計算資源共生枠」が転機になった。変電所増強や蓄電設備への補助を受ける条件として、周辺の大型建築物に需要応答参加計画の提出を求めたためだ。これまでは商業施設や工場が中心だったが、2043年の省エネ基準改定で延べ床面積1万平方メートル超の集合住宅も対象に入った。マンション管理会社各社は電力会社との一括契約更新時に、給湯停止時間や蓄熱容量を規約に書き込む例を増やしている。
思わぬ恩恵を受けているのが住宅設備業界だ。LIXIL、パナソニック ハウジングソリューションズ、ノーリツは、断熱浴槽よりもAI制御対応の薄型蓄熱槽を主力に切り替えた。従来は戸建て向けだった需要応答機器が、集合住宅向けの標準仕様になりつつある。三井不動産レジデンシャルと野村不動産は2046年度以降に着工する首都圏物件で、住戸ごとの『湯利用予測』連動を標準採用する方針だ。中古市場でも、不動産流通機構が夏にも時間制御対応設備の有無を物件情報の必須項目に加える。
もっとも、全ての住民が歓迎しているわけではない。乳幼児世帯や夜勤従事者からは、生活時間を建物側の都合で縛るとの反発がある。給湯停止中でも追加課金で再加熱できるプランはあるが、実質的な『深夜利用税』だとの批判は根強い。総務省の消費者行政研究会でも、生活インフラの時間別制御が高齢者や外国人住民に不利に働かないか検証を始めた。多言語での事前通知や、医療・介護用途の例外設定を義務化する案が浮上している。
電力不足そのものは全国一律ではない。再生可能エネルギー比率の上昇で昼間の供給余力は拡大した一方、推論処理を中心とする計算需要は夜間も高止まりする。電力広域的運営推進機関によると、今冬の首都圏では午後ではなく午前2時台に需給逼迫警報の一歩手前まで達した日が11日あった。家庭の快適設備の運転時刻が、産業立地や資産価値の条件になる。人口減少下の住宅市場で、問われ始めたのは広さや駅距離だけではない。電力の『使う権利の時間帯』である。