2045年4月26日(水曜日)

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金融

年金受取口座、生活圏単位で集約進む 地銀は『越境口座』争奪

広域行政に合わせ指定金融機関見直し 高齢就労と移住で県境の意味薄く
2045年4月6日 5:00

北関東と南東北の県境にまたがる「北関東北生活圏」で、自治体が公的給付の受取口座を生活圏内の共通基盤に載せ替える動きが広がっている。発端は年金と基礎給付金の受け取りだ。福島県白河市、栃木県那須塩原市、茨城県大子町など12自治体は4月から、生活圏共通IDにひもづく「越境口座指定」運用を始めた。住民は居住地の県をまたいでも同じ受取設定を維持でき、転居や医療・介護施設入所時の再登録負担が減る。

背景にあるのは、高齢者の就労継続と広域移動の常態化だ。総務省の住民移動統計によると、65歳以上の生活圏内越境転居は2044年度に98万件と5年前比で31%増えた。老化抑制医療の普及で就労年数が延び、子世帯同居より就業先や通院先に近い場所への小規模移住が増えたことが大きい。年金のほか介護給付、住宅補助、医療還付が複数自治体にまたがって発生し、従来の県単位・市町村単位の指定口座管理では手続きコストが膨らんでいた。

金融機関には新たな競争が生まれている。足利みらい銀行、常陽デジタル銀行、東邦ネクスト銀行の3行は、生活圏共通IDと連携した『越境口座』を相次ぎ投入した。受け取り機能だけでなく、死亡時凍結通知、成年後見人の権限確認、医療機関への自己負担上限証明の提示機能を一体化する。各行とも年金振込だけでは採算が薄いが、公共料金収納や見守り課金、相続事務受託まで広げれば採算線に乗るとみる。地銀再編で進んだ勘定系共通化が、生活圏金融の争奪戦を後押ししている。

変化は店舗網にも及ぶ。群馬銀行は前橋市内の2支店を年金相談拠点から相続・後見特化拠点に改め、越境受取の説明業務をAI窓口から有人審査へ切り分けた。七十七スマートバンクは仙台都市圏外からの給付受取客向けに、来店不要の本人確認を医療保険証基盤と連動させた。金融庁によると、2044年末時点で公的給付の受取口座のうち14%が居住自治体外の金融機関に設定され、2030年代後半の8%台から上昇した。口座シェア争いは、預金残高より『死後と越境に強い事務基盤』へ軸が移る。

もっとも課題もある。生活圏内で受取を一本化すると、自治体の指定金融機関制度が形骸化し、地元信金や農協の資金流出につながるとの懸念は根強い。全国信用金庫協会は、年金口座の広域集約で小口預金が都市部のデジタル銀行に吸い上げられれば、地域中小企業向け融資余力が細ると指摘する。総務省と金融庁は今夏、広域連携自治体向けに指定金融機関制度の運用指針を改定し、収納事務と給付受取を分離できるモデル規約を示す方針だ。

公的給付口座は長く、住民サービスの末端事務とみなされてきた。だが人口減少下では、どの金融機関が『移動する高齢者』の生活記録を握るかが、預金、与信、相続、見守りを左右する。県境をまたぐ生活が当たり前になるにつれ、地銀の競争相手は隣県の銀行だけではなくなる。行政の広域化が、地域金融の商圏そのものを書き換え始めた。