社内会議に『本人出席枠』 代理AI常態化で昇進審査が対面回帰
大和海運は今春、人事評価制度を見直し、部長級候補の昇進審査で「本人出席枠」を新設した。経営会議や投資審査会のうち月4回は、業務支援AIや代理アバターを介さず本人が同席することを求める。会議の要約や資料作成はAI業務システムが担うのが前提だが、最終判断局面では本人の応答速度や異論処理、沈黙の取り方まで評価対象に組み込む。人手不足への対応として始まった代理出席の常態化が、逆に管理職選抜の基準を変え始めた。
背景には、会議の処理効率が上がる一方で、責任の所在が見えにくくなった事情がある。日本生産性機構の調査では、上場企業の78%が課長級以上に会議代理AIの利用を認める。だが2044年度に内部監査で「判断理由の帰属が曖昧」と指摘された案件は製造、金融、物流を中心に前年度比32%増えた。会議録は残っても、誰がどの瞬間にリスクを引き受けたかが不明確になり、稟議後の修正や責任追及が長期化する例が目立つ。
このため企業は、処理能力ではなく「引き受け能力」を昇進要件に据え始めた。日立物流ソリューションズは2044年から、役員候補に四半期ごと12時間以上の現場会議出席を義務づけ、出席時の質疑応答を監査部門が点検する。三井住友トラスト・ホールディングスも投融資部門で、代理AIが作成した論点整理に対し本人がどこを修正したかを評価項目に加えた。発言の巧拙より、AIの提案にどこでブレーキをかけたかが問われている。
人材市場では早くも副作用が出ている。40代前半の中間管理職では、資料作成や根回しをAIに委ねた結果、会議そのものへの耐性が弱まったとの指摘がある。人材サービス大手のパーソネルリンク総研によると、管理職研修で最も受講者が増えた科目は「即時反対意見への応答訓練」で、受講者数は2042年度比2.4倍になった。若手の段階で下積み会議が減ったことが、昇進直前での再訓練需要を生んでいる。
厚生労働省は職業能力評価基準の改定案で、管理職の評価項目に「自動化環境下の意思決定説明」を新設する方向だ。経団連も春季労使協議の論点整理で、AI協働下では管理職手当の根拠を部下数ではなく「法的・対外的な説明責任の負荷」に改めるべきだと提起した。会議に人が出ること自体は非効率に映るが、企業は今、その非効率を統治コストの削減手段として買い戻している。