2045年4月26日(水曜日)

日本経済タイムズ

Japan Economy Times
電子版 朝刊
← トップに戻る
教育

入試の『手書き復元枠』拡大 業務AI時代、私大が筆記速度を再評価

総合型選抜の過信に修正 採点は思考過程と復元耐性を重視
2045年4月7日 5:00

都内の私立大入試会場で今春、受験生が端末を伏せ、紙の解答用紙に向かった。明青大学経営学部は2046年度入試から、一般選抜の2割を「手書き復元枠」に切り替えると発表した。設問文は教室前方の一時表示のみで、受験生は内容を記憶し、論点を再構成して記述する。単純な知識量より、外部支援なしで要件を保持し、筋道を立て直す力を測る狙いだ。情報端末の持ち込みは禁止し、監督員は視線追跡機能付き眼鏡の装着も認めない。

背景には、高校・予備校で定着した業務AI前提の学習環境がある。答案作成の補助や論点整理を日常的に外部システムに委ねる生徒が増え、大学側は「入学後の基礎演習で、自力の要約と再記述が想定以上に弱い」(明青大学入試本部)とみる。私大連盟の調査では、首都圏44大学の初年次教育担当者の61%が、学生の文章力低下よりも「指示が切れた状態での思考継続力」に課題があると回答した。単なるデジタル否定ではなく、接続喪失時の認知的な復元力をどう測るかが論点になっている。

入試方式の見直しは広がる。東関西学院大は2045年度から法学部で、事前配布資料の要旨を90分後に手書きで再構成させる試験を導入した。採点では結論の正否より、論点の抜け落ち率や因果関係のつなぎ方を点数化する。九州新都大学は工学系で、図面補助AIを使わない15分間のスケッチ試験を復活させた。文部科学省によると、全国の四年制大学の18%が来春入試で筆記・口述の比率を前年度比で引き上げる予定だ。2030年代後半に拡大した総合型選抜一辺倒に修正が入り始めた。

波及先は高校現場だ。大手学習塾の智学社は4月、対話型演習講座の一部で「無支援記述トレーニング」を新設した。板書を見てから一定時間後に答案を再現する訓練で、受講料は月2万8000円。東京都内の都立高では、定期考査で端末利用可の課題と、完全遮断の手書き課題を組み合わせる学校が増えた。教員からは採点負担の増加を懸念する声が出る一方、企業の採用試験でも会議記録を見ずに論点を再提示させる形式が増えており、高校側は「大学だけの問題ではない」と受け止める。

もっとも、筆記重視の回帰には異論もある。日本認知支援学会は、手書き速度や短期記憶を評価しすぎれば、神経多様性のある受験生や外国ルーツの生徒に不利だと指摘する。実際、文科省は先月、代替措置として口述再構成試験や時間延長の運用指針を各大学に通知した。入試改革の焦点は、紙か端末かの二者択一ではない。外部支援が常態化した社会で、本人に残る基礎認知の範囲をどう測り、どこまで配慮で補うかに移っている。