2045年4月26日(水曜日)

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文化

葬送BGMの包括契約広がる 火葬待ち長期化で『無音の別れ』回避

寺院・斎場が配信権処理を内製化、音楽団体は従量課金に転換
2045年4月8日 5:00

東京都足立区の広域斎場では今春、告別室ごとに音源管理端末を更新し、参列者が故人の生前指定曲をその場で呼び出せる仕組みを導入した。運営する足立東部葬送機構によると、火葬待ち日数は平均5.8日と2030年代後半の3日台から延び、通夜と告別式を切り離すケースが増えた。遺族が短時間の別れに求める演出は読経や献花よりも、故人の声や音楽に移っている。斎場の担当者は「時間圧縮が進むほど、数分の音響体験の重みが増す」と話す。

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全国の斎場運営会社や寺院で、葬送時の楽曲利用をあらかじめ包括処理する契約が広がっている。日本音楽葬送利用管理機構(JFMO)がまとめたところ、主要2000斎場のうち43%が2044年度に包括契約を締結し、2年前の18%から急増した。背景には、追悼配信の事前契約や越境葬送圏の拡大で、現場ごとに著作権や配信権を確認する従来方式が限界に達したことがある。これまでは無許諾を避けるため無音進行や汎用インストゥルメンタルで代替する例が多かった。

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変化は音楽業界の収益構造にも及ぶ。JASRACとNEXTONEは昨年秋、葬送用途向けの共同照合基盤を稼働させ、再生時間、参列人数、現地か配信かをデジタル円で即時精算する仕組みに切り替えた。1件あたりの単価は平均680円と小さいが、年間件数は推計910万件に達する。高齢多死と単身世帯の増加で葬送は小規模化した一方、曲数は平均2.7曲と増えた。ヒット曲の長期利用が増え、権利者にとってはライブや広告に次ぐ安定収入源として存在感を強めている。

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寺院側も収益機会として見始めた。真言宗系の大手寺院運営会社、東都霊園サービスは3月、全国87施設で『葬送音響標準プラン』を始めた。読経時間に合わせて楽曲を自動でフェード制御し、著作権処理と配信アーカイブを一括で請け負う。追加料金は1式9800円。僧侶の高齢化と人手不足で儀礼の省力化が課題となる中、音響演出を定型化することで現場負担を抑える狙いがある。地方では移民住民向けに母国語ナレーションと宗教別音源を組み合わせる需要も増えている。

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一方で、葬送の標準化に反発もある。全日本仏教会の一部会員は、定額プランが儀礼を『再生リスト化』し、寺院の関与を形式的なものにすると懸念する。遺族支援NPOからは、故人の嗜好データや生前契約情報が斎場、配信事業者、音楽管理団体にまたがって流通することへの不安も出る。総務省は今月、死後データ利用指針の見直し論点に葬送音源履歴を追加した。追悼配信が広がったことで、死後の個人情報は映像だけでなく『何を最後に流すか』まで管理対象になってきた。

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葬送市場の主戦場は祭壇の豪華さから、限られた時間で故人像をどこまで再構成できるかに移っている。棺や生花の単価は横ばいでも、音響、配信、権利処理を含むデジタル演出費は2044年度に前年度比19%増えた。高齢多死社会では葬儀の簡素化が進むとの見方が強かったが、実際には簡素化されたのは物理的な儀式であり、感情の編集工程はむしろ厚くなっている。火葬待ちの長期化が、音楽著作権という周辺市場を押し広げ始めた。