2045年4月26日(水曜日)

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スポーツ

市民マラソン、完走証明に『生体自走率』 伴走機器普及で大会運営再設計

外骨格と走行補助端末の線引き難しく、保険料率や参加区分に影響
2045年4月8日 5:00

東京都内で今春開かれた市民マラソン大会で、完走記録とは別に「生体自走率」を表示した電子完走証が導入され始めた。着用型外骨格、膝関節補助バンド、心拍連動の歩容補正端末が中高年ランナーに広がり、同じ42.195キロでも「どこまで本人の筋出力で走ったのか」を示す必要が出てきたためだ。従来は医療機器か否かで整理してきたが、競技性より健康維持を重視する市民大会では区分が追いつかなくなっている。

先行したのは東京湾岸マラソン実行委員会で、2045年大会から完走証アプリに自走率、補助推進率、姿勢補正介入回数を併記した。大会計測を担うミライチップス(東京・品川)が、シューズ内圧力計と腰部センサー、着用機器の出力ログを照合して算出する。男子60歳以上の完走者のうち、何らかの走行補助端末を使った比率は58%に達した。40歳代でも27%に上り、従来の「仮装・補給・ペース管理」とは別の運営論点になっている。

背景には、高齢就労の長期化で健康管理として大会参加する層の拡大がある。スポーツ庁の委託調査によると、フルマラソン参加者の中央値は53歳と2020年代より9歳上昇した。老化抑制医療で心肺機能を維持する層が増えた一方、膝や足首の局所補助機器への需要が強い。大会側にとっては参加者増が追い風だが、機器起因の接触事故や転倒時の責任分界が曖昧だった。大手損保4社は今季から、大会保険の料率算定に補助推進率の申告有無を反映し始めた。

運営現場では順位より導線設計への影響が大きい。補助推進機器は下り坂や終盤で急加速しやすく、給水所や折り返し地点で速度差が拡大する。大阪城リバーラン大会は今月、申込時に「自走区分」「補助区分」「医療例外区分」の3区分を新設し、スタートブロックを分離する。補助区分の参加者は全体の2割弱だが、接触事故件数は一般区分の2.3倍だった。大会主催者の間では、公平性より安全性を軸にした再編が現実的との見方が広がる。

用品各社の戦略も変わる。アシックスは市民大会向けに出力上限を大会側が遠隔設定できる補助バンドの供給を始め、ミズノは「歩容補正のみで推進力を加えない」認証モデルを前面に出す。競技連盟の公認記録とは切り離しつつ、健康増進イベントとしての参加者裾野を維持する狙いだ。地方大会では完走率の向上が宿泊・飲食消費に直結するため、自治体は補助機器利用者を排除しにくい。長野県松本市は秋の大会で、観光振興費から機器検査費の一部を補助する。

もっとも、数値化が新たな分断を生む懸念もある。自走率が低い参加者への偏見や、企業の健康ポイント制度で高自走率だけが優遇される懸念は根強い。日本市民スポーツ協会は6月にも指針を公表し、完走証への表示は本人選択制を原則としつつ、保険引受や安全管理に必要な最小限のデータ共有を認める方向だ。支え手不足の時代に、市民スポーツは競技記録を競う場から、補助を織り込んで身体活動を維持する社会基盤へと性格を変えつつある。