住宅ローンに『稼働余白条項』 介護・配送ロボ共用化で審査改定
東京都足立区の分譲マンション「リヴィオ北千住リンク」では、夜間に各戸の家事アンドロイドが共用部へ集まり、廊下清掃や宅配仕分けをこなす。日中は高齢入居者の見守りや荷受け補助に回り、稼働実績は管理組合を通じて記録される。住民が受け取る対価は月平均1万6800円。三井住友信託銀行は今春、この収入見込みを住宅ローン審査に組み込む「稼働余白条項」付き商品を首都圏で始めた。人ではなく機体の空き時間が、家計の信用力を補う構図だ。
背景には、家庭用アンドロイドの普及初期を越えた「共用化」の進展がある。国土交通省の住宅設備連携実証によると、2044年度に新築分譲された中高層住宅の29%が、住戸内ロボと共用設備を連携させる管理規約を持つ。配送、清掃、見守りの一部を住戸ごとの保有機体で融通し、管理費を圧縮する仕組みだ。大和ハウス工業や野村不動産は、共用ロボを持たず各戸保有機を束ねる方式の方が更新費用を抑えやすいとして、首都圏と中京圏で導入を広げている。
金融機関が注目するのは、その対価の安定性だ。みずほ銀行は4月から、管理組合や受託事業者から支払われるロボ稼働料のうち、過去12カ月の入金実績が確認できる分の70%を返済負担率の算定に反映する。住信SBIネット銀行もデジタル円口座に入る機体利用料を対象に、変動金利を年0.12%優遇する。住宅ローンは従来、給与や年金、事業所得が中心だった。そこに「設備由来の反復収入」が加わり始めた。太陽光余剰売電を審査に織り込む動きは2020年代からあったが、今回は住宅設備そのものが役務提供主体になる点が異なる。
審査実務も変わる。りそなホールディングスは、機体の稼働証跡、保守契約、事故保険の3点をそろえた案件のみ対象とし、故障停止日数が年15日を超える場合は算入率を下げる。全国保証は保証料算定に「機体代替係数」を導入し、同一規格の代替機を管理組合が48時間以内に手配できる物件を優遇する。返済能力の審査が、勤務先の安定性だけでなく、住宅のロボ運用体制や規約の堅牢性まで見るようになった。住宅販売の現場では、間取りや眺望に加え、機体保守網の厚さが販売資料の前面に出ている。
もっとも、課題は少なくない。金融庁は3月、ロボ稼働料を住宅ローン審査に用いる際の監督指針案を公表し、利用者本人が自由に処分できない共益費相殺分は収入認定から除く考えを示した。消費者団体は、住宅価格の上昇局面で将来不確実な稼働収入を過大評価すれば、かつての共働き前提ローンと同様に返済不能を招くと警戒する。故障時の責任もなお曖昧だ。住戸内で使う家事機体が共用部で事故を起こした場合、所有者、管理組合、運行受託会社のどこが主責任を負うかは契約ごとの差が大きい。
それでも、人口減少と高齢単身化が進むなかで、住宅は「住む箱」から小規模な役務供給拠点へと性格を変えつつある。金融商品がその変化を先に織り込み始めた意味は小さくない。住宅ローン市場では、借り手の勤労所得を積み上げる発想から、住戸に埋め込まれた設備の稼働力をどう評価するかへ軸が移る。家計の信用は、居住者の属性だけでなく、住まいが外部にどれだけ働けるかで測る時代に入りつつある。