分譲マンション管理規約に『代理居住枠』 長期不在高齢者の住戸維持、標準化へ
東京都江東区の築18年の分譲マンション「ベイリンク潮見」では、この春の管理組合総会で新たに「代理居住登録制度」を導入した。住戸所有者が3カ月超不在となる場合、事前登録した親族や契約事業者のスタッフが一定期間住戸を使用できる仕組みだ。背景には、老化抑制治療の通院や高齢就労の長期出張、地方親族の介護支援などで、所有者が持ち家を空ける例の増加がある。従来の民泊禁止規約では対応しきれず、管理員不在時間帯の設備異常や漏水発見の遅れが問題になっていた。
制度の導入を後押ししたのは、国土交通省が3月末に公表した「区分所有住宅管理標準指針2045」改訂版だ。新指針は、短期賃貸や民泊と切り分けたうえで、生活実態を伴う代理居住を管理規約上の独立区分として例示した。鍵管理、居住者認証、共用部利用履歴の保存期間、災害時の安否確認責任まで標準条文を示し、管理会社各社が一斉にひな型の更新を進めている。管理業界では「所有者が住むか貸すか」の二分法が崩れ、第三の利用形態として定着するとの見方が強い。
日本マンション管理士連合会によると、首都圏と関西圏の築10年以上の分譲マンションのうち、所有者の年間不在日数が90日を超える住戸は2044年度に13.8%と、2030年代半ばの約2倍に増えた。高齢単身世帯の二拠点生活に加え、外国籍専門職の家族が来日時のみ居住するケースも目立つ。空室のままでは修繕積立金の滞納や設備劣化が起きやすく、管理組合にとっては防災・財務の両面で負担が大きい。代理居住は実需を保ちながら住戸の可動率を高める手段として注目される。
管理会社は新サービスを収益源に育てる。大京アステージは4月から、代理居住者の本人確認、入退去時の設備診断、共用施設利用設定を一括で請け負う「留守宅運営パック」を全国1200棟で始めた。手数料は1件3万8000円から。東急コミュニティーも、デジタル円での一時負担金徴収と連動した登録管理システムを導入する。火災保険会社は漏水事故率の低下を見込み、代理居住登録住戸の保険料を平均6%下げる商品を用意し始めた。空けた住戸を完全な遊休資産にしないことが、管理の採算を左右する構図になっている。
一方で論点も残る。代理居住者が実質的な又貸しに近い運用をする懸念や、外国人短期就労者の受け入れを巡る住民感情には温度差がある。警察庁は不正滞在対策の観点から、本人認証ログの保存基準を管理会社向けに整理する方針だが、過剰監視への反発も強い。区分所有法制に詳しい日本大学の牧野浩一教授は「空室リスクの抑制と私権制限の均衡が難しい。今後は管理規約だけでなく、固定資産税の住宅実態把握や住民基本台帳との接続も議論になる」と指摘する。
分譲マンション市場ではこれまで、資産価値は立地や修繕計画、アンドロイド適合性など建物性能で測る傾向が強かった。足元ではそこに「不在時でも居住を切らさない運営能力」が加わりつつある。人口減少下で住戸そのものの不足感が薄れる一方、居住の連続性を保てる物件は管理費の上昇を抑えやすい。所有から利用へという古い議論では捉えきれない、長寿・広域生活時代の住宅管理再編が始まっている。