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政治

住民票に『意思疎通環境』欄 総務省、外国人定住で行政配分見直し

国籍や年齢でなく翻訳依存度を把握、避難計画や窓口人員に反映
2045年4月11日 5:00

総務省は10日、住民基本台帳の付随情報として「意思疎通環境」欄を自治体が任意登録できる新運用指針を公表した。日本語能力そのものではなく、行政手続きや医療受診、災害時避難で住民が必要とする支援手段を「日本語のみ」「機械翻訳併用」「常時通訳支援」「やさしい日本語優先」などで記録する。外国人住民の増加と高齢者の認知機能低下を同じ行政課題として扱うのが特徴だ。

住民票はこれまで国籍、在留資格、世帯構成など静的情報が中心だった。だが窓口現場では、同じ外国籍でも自力対応できる人と常時支援が必要な人の差が大きく、逆に日本国籍の高齢者でも複雑な行政文書を理解しにくい例が増えていた。総務省の試算では、全国の自治体窓口で発生する再来庁の18%が説明手段の不適合に起因する。意思疎通環境を把握できれば、窓口混雑を平均12%減らせるとしている。

背景には、定住外国人政策の重心が就労受け入れから生活圏統合へ移ったことがある。外国人居住者は足元で約480万人に達し、製造業や介護だけでなく、子育て世帯としての定住も進む。一方、老化抑制医療の普及で就労高齢者は増えたが、聴覚や認知の補助を要する層も厚い。自治体の現場では、言語支援と高齢者支援が別部局に分かれ、避難所運営や学校手続きで二重対応が生じていた。今回の指針はその縦割りを崩す狙いがある。

先行したのは浜松市、川口市、福岡市など外国人比率の高い自治体だ。浜松市は2039年から保育所入所案内と防災通知で意思疎通環境の事前登録を試行し、災害訓練の参加率が7ポイント上がった。川口市では救急搬送時に消防指令が住民登録情報を参照し、搬送先病院へ必要な通訳手段を事前送信する仕組みを導入した結果、受け入れ照会時間が平均6分短縮した。総務省はこうした事例を標準様式に落とし込んだ。

焦点は交付税配分にも及ぶ。総務省は令和28年度の地方財政計画で、多言語窓口や通訳端末、やさしい日本語文書整備にかかる経費について、外国人住民数だけでなく『支援必要度人口』を加味する方向で調整に入った。人口規模が小さくても、農業や建設で外国人定住者が集住する自治体は財源を確保しやすくなる。一方、大都市側には、単純な人数基準で得てきた交付の一部が薄まるとの警戒感もある。

個人情報保護を巡る論点は残る。支援区分が事実上の能力ラベルになれば、住宅入居審査や採用選考に流用される懸念があるためだ。このため指針では、住民票写しへの記載を認めず、行政内部と本人同意のある医療・防災連携に用途を限定した。登録内容も本人申告を基本とし、資格試験の成績など外部評価の転記は禁止した。総務省は『能力の格付けではなく、行政の失敗を減らすための環境情報だ』と説明する。

行政サービスの単位が、国籍や年齢といった属性から、支援の要否という機能へ移り始めた。人口減少下で自治体が確保すべきなのは住民数そのものより、行政手続きに乗りやすい状態の維持だ。窓口の翻訳端末整備や学校文書の標準化といった個別施策は進んできたが、今回の見直しは住民データの設計思想にまで踏み込んだ。定住社会に入った日本の行政が、ようやく受け手側の理解条件を基礎台帳に織り込み始めた。