2045年4月26日(水曜日)

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社会

墓地使用権、相続より『返還予約』 無縁化回避で寺院が生前契約

長寿単身と越境葬送圏で承継不全増加、石材店は可搬型区画へ転換
2045年4月12日 5:00

東京都足立区の真成寺では、この春から永代使用墓の新規契約書に「返還予約条項」を標準で盛り込んだ。契約者が死亡した後、一定期間内に承継者が現れない場合、区画を寺院側に自動返還できる仕組みだ。従来は相続人や祭祀承継者の探索が前提だったが、長寿単身世帯の増加と居住地・埋葬地の分離で、その前提が崩れている。寺院関係者の間では、墓地の需給問題は不足よりも「戻らない使用権」の管理負担に移ってきたとの見方が広がる。

背景にあるのは、埋葬の広域化だ。総務省と厚生労働省が進める越境葬送圏の運用で、死亡地と納骨地が別の生活圏にまたがる例が増えた。全日本仏教会の調査では、三大都市圏の寺院墓地で承継予定者の居住地が同一都道府県内にある比率は2036年の62%から2044年に39%へ低下した。寺院側は死亡確認後の連絡、未納管理費の精算、納骨物の扱いを抱え込みやすく、法務と保管の費用が経営を圧迫している。

返還予約は、使用権を事前に解約予約する契約実務に近い。契約時にデジタル円で原状回復費と改葬時の事務費を供託し、死亡判定APIや戸籍連携で発動する。祭祀承継者が現れれば予約は失効するが、一定期間を過ぎれば寺院が区画を再募集できる。都内の宗教法人向け管理システムを手がけるメモリアリンクスによると、2044年度に更新した約1万8000区画のうち27%で返還予約が設定された。非婚・子なしの契約者では4割を超えた。

影響は石材や墓地区画の設計にも及ぶ。石材大手の鳳凰ストーンは、合葬墓へ移し替えやすい軽量基壇の販売を2043年比で1.8倍に伸ばした。関西では、骨壺収納部だけを標準寸法で交換できる「可搬型区画」が増えている。従来の墓石は永続利用を前提にした重量設計だったが、返還と再募集を前提にすると、解体費と再整備日数を抑える仕様が有利になる。墓地は家の象徴財から、回転率を管理する準公共資産へ性格を変えつつある。

もっとも、生前に返還を予約することへの抵抗はなお根強い。宗教学者や遺族支援団体の一部には、供養の継続性が契約条件に従属しすぎるとの懸念がある。これに対し、寺院側は無縁墓化して数十年放置されるほうが遺骨の尊厳を損なうと反論する。文化庁宗務課は今月、宗教法人の墓地使用規則に返還予約条項を盛り込む際の説明義務や、外国籍契約者向け多言語表示の留意点をまとめた事務連絡を都道府県に送った。

墓地市場では、承継の有無ではなく「終了の設計」が契約価値になり始めた。葬送はこれまで、死亡後の手続き整備が中心だったが、今後は生前契約の段階で返還、改葬、遺骨保管の出口まで定める商品設計が広がる可能性が高い。高齢化と移動の常態化で、住まいと同様に墓もまた、持ち続ける権利より円滑に手放せる権利が問われている。