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経済

駅ナカ小売り、棚より『滞留権』売る 通勤減で改札内賃料に新指標

鉄道各社、乗降客数から滞在課金へ転換 保険・医薬相談が主顧客に
2045年4月12日 5:00

JR新宿駅東口の改札内で、東日本旅客鉄道子会社のJR東日本クロスステーションが3月に開いた「Station Commons 新宿」では、売り場面積の3割を商品棚ではなく着席区画が占める。飲食主体ではない。デジタル円で15分単位に課金する半個室12室、立席相談ブース18区画、静音待機席64席を組み合わせ、保険見直し、処方薬の受け取り前説明、遠隔行政相談の利用を見込む。駅ナカ小売りが「物販」から「滞留の販売」へ軸足を移し始めた。

背景にあるのは、鉄道駅の収益構造の変化だ。国土交通省の都市交通利用動向調査によると、三大都市圏の平日鉄道乗車回数は2020年代前半比で14%減った一方、改札内平均滞在時間は8.6分から13.9分へ延びた。通勤の定期性が薄れ、通院、行政手続き、短時間就労の移動が増えたためだ。従来の駅ナカ賃料は通行量連動が中心だったが、足元では「有効滞留分」を基準にした契約が急増している。

小売り各社の出店内容も変わった。ルミネは池袋、品川の駅区画で物販テナントを縮小し、業務AIを使う保険代理店、服薬指導補助を担う薬局、自治体の遠隔窓口代行を入れた。東京メトロ系のメトロプロパティーズは、改札内区画の賃料査定に、視線追跡ではなく着席率、会話遮音性能、認証通過率を組み込む新基準を導入した。従来は購買単価が重視されたが、今は「10分超を安心して過ごせるか」がテナント価値を左右する。

変化は駅ビルの外にも波及する。大手不動産仲介の三井不動産リアルティ総合研究所によると、首都圏主要37駅で駅前1階路面店の成約賃料は前年同期比2.8%下落した一方、改札内相談区画の実質賃料は11.6%上昇した。保険会社や医療関連事業者にとって、駅外の路面店舗より本人認証、移動導線、防犯が一体化した改札内の方が運営コストを抑えやすい。駅前商店街では高単価の物販より予約型サービスへの転換圧力が強まっている。

制度面でも後押しが進む。経済産業省と国土交通省は今月、駅構内サービス区画を対象にした「生活動線連携拠点整備指針」を公表した。薬機法上の説明義務や金融商品の本人確認を、改札内の認証基盤と連携して簡素化できる運用例を示したのが柱だ。鉄道各社は乗降客数の回復を待つのではなく、駅を短時間の生活処理拠点として再設計する。収益指標も乗車人員ではなく、改札内総滞在分と成約率の掛け合わせに移りつつある。

もっとも、課題は残る。改札内サービスの拡大は、運賃を払わなければ利用できない「生活インフラ」の増加を意味するためだ。首都圏消費者連盟は、通院や行政相談のために入場料相当額を負担する低所得高齢者への配慮を求める。鉄道各社は入場券の時間上限延長や相談利用者向け還元で対応するが、駅が公共空間と私的課金空間の中間に移るなか、都市の基礎サービスを誰がどこまで担うのかという論点は残る。