2045年4月26日(水曜日)

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環境

潮位データ、商店街の賃料左右 浸水保険連動で内陸店に資金流入

国交省の道路冠水予測API開放、立地評価が人流から『営業停止日数』へ
2045年4月13日 5:00

東京都江東区の砂町銀座周辺で、今春の新規出店賃料が前年同月比で12%下がった。一方、同じ生活圏でも標高差が2〜3メートル高い清澄白河周辺では、小型飲食や調剤併設店の成約賃料が9%上がった。人流に大差はない。差を生んだのは来街者数ではなく、浸水時に何日営業を止める可能性があるかという新たな立地指標だ。豪雨の激甚化と店舗保険の料率改定を受け、商業不動産の評価軸が静かに組み替わっている。

転機になったのは、国土交通省が2044年秋に道路冠水・排水遅延の予測APIを民間開放したことだ。従来のハザードマップは住宅売買では使われても、商店街の個店賃料への反映は限定的だった。だが、保険会社が同APIを活用し、店舗ごとの「年間想定営業停止時間」を算出し始めると事情が変わった。東京海上日動火災保険、MS&AD系2社、SBI損保は2045年度契約から、浸水補償付き事業保険で停止日数予測を料率に組み込んだ。

賃貸契約の実務も変わる。三井不動産リアルティやイオンモール系管理会社では、テナント募集図面に人通りや売上高推計と並べて「72時間復旧確率」「荷捌き場冠水リスク」を記載する例が広がる。みずほ信託銀行によると、首都圏と関西圏の小売り物件売買で、金融機関が事業計画審査に使う指標は、賃料負担率に加え「年換算停止損失率」が定着しつつある。小規模事業者ほど、1週間の休業が資金繰りに直結するためだ。

影響は意外な分野にも及ぶ。内陸側で地盤の高い商店街では、空き店舗を短期保管庫や災害時の臨時受け渡し拠点として評価する動きが出ている。日本郵便とヤマト運輸は、浸水頻発地域の当日配送網を補完するため、標高情報を踏まえた「代替受け渡し協定」を自治体と結び始めた。平時の売り上げでは劣る立地でも、災害時に営業継続できる店舗は地域物流の結節点となり、保証金や共益費条件で優遇を受けやすい。

もっとも、低地の商業地が一律に不利になるわけではない。大阪市此花区や名古屋市港区では、止水板の自動展開設備や床上40センチの電源集約、冷蔵設備の高床化を条件に、保険料の上乗せ幅を3割程度圧縮できる物件もある。大和ハウス工業や積水ハウス系の商業開発では、売り場面積そのものより、設備復旧の早さを売りにした改修提案が増えた。工事需要は建材、排水ポンプ、非常用蓄電池に波及している。

自治体にも新たな選別圧力がかかる。これまでの治水投資は住宅浸水戸数を中心に費用対効果を測ってきたが、今後は商業地の営業停止損失をどう織り込むかが問われる。国交省は今夏、流域治水交付金の配分指標に「地域営業継続係数」を試験導入する方向だ。人口減少下では、商店街を残すか、生活圏単位で高台側へ機能移転を促すかの判断が避けにくい。水害対策は防災政策にとどまらず、地域商業の再配置政策へ変わり始めた。