2045年4月26日(水曜日)

日本経済タイムズ

Japan Economy Times
電子版 朝刊
← トップに戻る
金融

葬祭積立、使途を『生前整理』まで拡張 長寿単身で信託商品が再編

遺品処分や賃貸明け渡しを一体化、冠婚葬祭互助会は前払いモデルに修正圧力
2045年4月13日 5:00

東京・板橋区の信託相談窓口で、78歳の単身女性が契約書に署名した。対象は葬儀費用ではない。死後に残る衣類や端末、賃貸住宅の明け渡し、配信アカウントの解約、家事アンドロイドの回収までを一括で執行する「生活終業信託」だ。みずほ信託銀行や三井住友信託銀行、第一生命系の管理会社が相次ぎ商品を拡充し、従来は葬祭費中心だった積立金の使途が生前整理まで広がってきた。

背景にあるのは、葬儀そのものより死後実務の膨張だ。総務省の人口動態補助調査によると、2044年の単身死亡者は68万人と2030年代初頭に比べ3割増えた。相続人不在や遠隔居住で、遺体搬送後も住居内の残置物処理や契約停止が滞る例が増えている。賃貸住宅では明け渡し完了まで平均19日を要し、家賃・保管・清掃費を含む死後実務費は首都圏で平均62万円と、一般葬の中央値54万円を上回った。

このため金融商品は、死亡時に定額を支払うだけの互助会型から、事務執行を伴う信託型へ軸足を移す。三井住友信託は4月、家財分類と処分指示を生前に登録できる新商品を投入し、月額積立を最低3000円からとした。りそなグループはアパマン管理会社と連携し、明け渡し完了までの立て替え資金をデジタル円で自動執行する仕組みを始めた。信託報酬は残高の年1.2%前後と低くないが、保証会社や大家の受け入れは広がる。

影響を受けるのは冠婚葬祭互助会だ。経済産業省によると、互助会の前受金残高は2044年度末で2.8兆円あるが、利用者の関心は祭壇の等級より死後手続きの完結性に移っている。ベルコ、くらしの友、アルファクラブ武蔵野は相次ぎ行政書士法人や残置物処理業者と提携したが、割賦販売法に基づく前受金保全の枠内では、葬儀外サービスへの充当余地が限られる。経産省は今夏、互助会の業務範囲見直しを審議会に諮る。

銀行側にも商機はある。公的年金の柔軟受給と基礎給付金で高齢単身者の月次資金繰りは安定し、少額積立型の継続率が高い。SBI新生銀行の試算では、死後事務関連の信託・保険・収納代行を束ねた市場規模は2045年度に6100億円と、2030年代初頭の約2.4倍になる見通しだ。デジタル円の条件付き送金を使えば、死亡診断登録や退去確認を支払条件にでき、不正請求を抑えやすい。金融機関にとっては相続縮小下でも手数料収入を積み上げやすい分野になった。

もっとも、課題は価格の妥当性と執行の透明性だ。死後事務は本人確認が難しく、契約時の意思能力や、処分対象の優先順位を巡る紛争が絶えない。国民生活センターには2044年度、終活信託に関する相談が1万2800件と前年度比42%増で寄せられた。金融庁は信託業高度化指針を改定し、端末内データの消去証明、アンドロイド回収記録、賃貸明け渡し工程の可視化を標準開示項目に加える方針だ。長寿単身社会では、葬祭金融は「送る費用」から「片づける機能」へ性格を変えつつある。