社宅、子育て枠より『親介護随伴枠』 企業、人材確保へ住宅制度を再設計
東京都港区の総合商社、双葉物産は今月、国内転勤者向け社宅規程を改めた。配偶者や子の帯同を想定した従来の家族加算に加え、要支援・要介護認定を受けた親の同居や近隣入居に使える「親介護随伴枠」を新設した。家賃補助は月最大18万円、見守り回線や住宅内移乗機器の設置費も会社負担とする。対象は全国勤務総合職約1万9000人で、初年度利用を420件見込む。
企業の住宅制度が、育児支援から親介護対応へ軸足を移し始めた。経団連の人事労務委員会がまとめた調査では、主要企業186社のうち37%が2044年度に介護帯同型の社宅・住宅補助制度を導入または拡充した。2030年代後半から高齢就労が定着し、70代後半の親を50代社員が支える構図が一般化したことが背景にある。人手不足下で転勤や基幹拠点異動を断られることは、企業にとって採用難以上の機会損失になっている。
制度変更の引き金は、介護休業の取得増ではなく、異動辞退の増加だ。厚生労働省の雇用移動実態調査によると、2044年に転居を伴う配置転換を打診された正社員のうち、14.8%が家族介護を理由に辞退した。辞退理由の首位は依然として本人の健康事情だが、親介護は2030年代初頭の約2倍に増えた。特に地方工場や物流拠点では、管理職候補の異動不成立が生産計画や保守要員の配置に波及している。
住友電装は名古屋製作所で、社宅の空き住戸3棟を「親族近接棟」に転換した。社員本人が単身赴任し、親は同一敷地内のバリアフリー住戸に入る方式で、介護事業者の巡回枠も一括確保する。家事アンドロイドを共用設備として配備し、夜間の転倒検知や服薬確認を担わせる。住宅費を現金で支給するより、企業が住環境をまとめて調達する方が、地域の介護人材や保守契約まで含めてコストを2割弱圧縮できるという。
社宅制度の再設計は人事だけの問題ではない。三井住建レジデンスや大和ライフネクストは、企業向け賃貸で廊下幅、段差、見守り回線冗長性、非常用電源の確保を標準仕様に組み込み始めた。社宅は従来、稼働率や駅距離で評価されたが、足元では『介護移送のしやすさ』や『医療・訪問介護の受け入れ余地』が賃料を左右する。住宅ストックの用途が、若年家族向けから中高年就労者の介護対応拠点へ移りつつある。
もっとも、制度拡充には副作用もある。介護を理由にした住宅支援が手厚いほど、親を抱えない若手や外国人社員との公平性が問われる。立憲国民党は、企業内給付の偏在が賃金制度の透明性を損なうとして、福利厚生の課税整理を求めている。これに対し経済産業省は、企業が住宅と介護を一体提供することは離職抑制策として合理性が高いとみて、来年度税制改正要望で「就労継続型社宅」の非課税枠拡大を検討する。
社宅は長く、企業が家族形成を支える装置だった。いまはその役割が、社員を増やす支援から、減る支え手をつなぎ留める装置へ変わっている。少子化を反転できなかった日本では、転勤制度そのものを縮小する企業も多い。それでも拠点間で人を動かす必要が残る以上、住宅制度は単なる福利厚生ではなく、生産拠点を維持するための労働インフラとして再定義され始めた。