2045年4月26日(水曜日)

日本経済タイムズ

Japan Economy Times
電子版 朝刊
← トップに戻る
教育

教員評価、『授業力』より調停件数 常時翻訳校で保護者対応が主業務に

外国人定住と高齢親族同居が重なり、学校は学習機関から生活調整拠点へ
2045年4月14日 5:00

東京都江東区の区立第三潮見小学校では、始業前の職員室で教員が教材より先に確認するのは「家庭調整ボード」だ。欠席連絡、服薬共有、送迎変更、宗教上の給食除外、同居祖父母の緊急連絡先更新まで、1校で1日平均182件の生活連絡が入る。日本語、中国語、英語、ベトナム語に対応した校務基盤が自動で仕分けるが、最終判断は教員が担う。教頭の佐伯美奈氏は「授業準備時間より、家庭間の認識差を埋める時間の方が長い日もある」と話す。

こうした実務を映すように、文部科学省は今月、公立小中学校の教員評価指針改定案を都道府県教委に示した。従来の公開授業や学力改善指標に加え、新たに「生活調整対応」「多言語合意形成」「外部支援接続」の3項目を標準評価に盛り込む。保護者面談の実施回数ではなく、欠席長期化や医療・福祉案件への移行を未然に防いだ件数を評価対象とするのが特徴だ。教員を学習指導者だけでなく、学校を核とした生活圏の調整者として位置づけ直す。

背景には、学校が抱える相談の質的変化がある。国立教育政策研究所の調査によると、全国の公立小中学校で教員1人あたりが週に処理する家庭関連案件は2036年度の26.4件から2044年度は61.7件に増えた。増加分の中心は学力不振ではなく、言語支援、服薬管理、送迎契約、親の就労時間変動、同居高齢者の介護事情など授業外の生活案件だ。外国人住民の定住化に加え、共働きと親介護の同時進行が家庭運営を複雑にしている。

学校現場では既に人員配置が変わり始めた。横浜市教育委員会は2046年度から、児童600人以上の小学校に「家庭調停主任」を1人常置する方針だ。教員免許保持者に限らず、社会福祉士や医療通訳経験者も対象とする。大阪府豊中市は先行して、退職教員と地域通訳を組み合わせた生活調整員を34校に配置し、遅刻・欠席の反復案件を1年で18%減らした。授業そのものは業務支援AIで標準化が進んだ一方、人間の教員には対立の火種を小さい段階で収める役割が集まる。

もっとも、教育界には反発もある。全日本教職員連盟は「福祉、医療、移民統合の不足を学校に引き受けさせる発想だ」と批判する。評価項目に調停件数を入れれば、困難案件を抱える学校ほど教員の負荷が見えにくくなるとの懸念も強い。文科省は、単純な件数競争を避けるため、案件の複雑度や再発率、外部機関への適切な接続率を補正に使うとしているが、運用の透明性はなお課題として残る。

教員採用市場にも波及は及ぶ。民間の教員採用支援会社、エデュリンク総研によると、2045年春の自治体採用試験で「調整業務研修」を選択科目にした自治体は24に達し、前年の9から増えた。大学の教職課程でも、授業設計よりケース会議演習を厚くする動きが広がる。少子化で児童数は減っても、学校が扱う生活上の交渉コストはむしろ増えている。教育行政は今、教員の専門性を教科知識の延長ではなく、地域生活の摩擦を抑える公共技能として再定義し始めた。