2045年4月26日(水曜日)

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医療

健診で『就労余力偏差』通知 健保組合、再配置保険料に活用

血糖や血圧より回復速度を重視 配置転換と賃金設計に波及
2045年4月15日 5:00

大手健保組合の定期健診で、従来の疾病リスクに加え「就労余力偏差」を通知する動きが広がっている。三菱UFJ連合健康保険組合、日立健康保険組合、イオン健康保険組合などが2044年度から導入し、2045年度は加入者ベースで約780万人に達する見通しだ。指標は睡眠回復速度、起立時循環変動、微細運動の安定度、認知負荷後の復元時間などを合成し、配置転換や短時間勤務提案の材料として使う。病気の有無ではなく、どの程度働き続けられるかを数値化する試みだ。

背景には、高齢就労の長期化と企業の再配置コスト増がある。健康年齢が若く見えても、午後の集中低下や連続勤務後の回復遅れが生産性を左右する例が増えた。経済産業省の「就労継続力可視化指針」に沿い、健保組合は企業向けに匿名集計レポートを提供する。製造、物流、自治体窓口など人と機器の協働比率が高い職場では、欠勤率よりも「復元時間」の長短が事故率と相関するとの分析が広がる。

東京海上ウェルネス総研が2044年に147社、約62万人分を分析したところ、就労余力偏差が50を下回る部署は、同水準以上の部署に比べて突発的なシフト再編費用が1.8倍、労災に至らない軽微事故が1.5倍だった。富士通ゼネラルサービスはコールセンターと保守拠点でこの指標を人員配置に反映し、繁忙期の応援投入を前年より23%減らした。介護大手のSOMPOケアネクストは夜勤前後の回復指数に応じて担当業務を細分化し、離職率を2.4ポイント下げた。

波及先は医療の外に及ぶ。第一生命と明治安田生命は団体就業不能保険で、企業が就労余力偏差の改善プログラムを採用した場合の保険料割引を始めた。人材会社のパーソルHDは転職仲介で、本人同意を前提に「適合勤務帯レポート」を受け取る仕組みを整えた。従来の健診は治療や受診勧奨が主目的だったが、足元では賃金テーブル、夜勤手当、研修配属まで左右する“労働インフラ情報”へ変質しつつある。

もっとも、指標の独り歩きには警戒も強い。日本労働弁護団は、病名を伴わない数値で昇進や雇い止めに差を設ければ、実質的な健康選別に当たると指摘する。厚生労働省も3月、健診データの就業利用について本人説明と異議申し立て窓口の設置を求める事務連絡を出した。回復速度は育児、介護、副業、居住環境の影響も受けるため、個人責任に還元すべきでないとの見方も根強い。

それでも企業側の関心は高い。人手不足下で一律の残業規制や年齢基準だけでは現場が回らず、配置の精度を高める需要が強いからだ。健診が『病気を見つける場』から『働き方を仕分ける場』へ軸足を移せば、産業医、健保、保険、雇用管理の境界は一段と薄くなる。長寿化に適応した日本の労働市場は、健康の定義そのものを静かに書き換え始めている。