銀行窓口、『同席認証』に手数料 長寿親子の資産移転、対面確認が新業務
三井住友銀行の日本橋東デジタル店ではこの春から、70代後半の顧客が30代後半の子と並んで窓口に座る光景が珍しくなくなった。相続ではなく生前移転、後見開始ではなく任意支援。長寿化と老化抑制医療の普及で、親が就労と資産管理を続けたまま、子世代の住宅取得や介護準備を部分的に支える取引が増えている。銀行は送金や贈与そのものより、当事者双方の意思を確認する「同席認証」を有料業務として切り出し始めた。
みずほ銀行、千葉銀行、福岡フィナンシャルグループなど主要行では、親族間の高額資金移動時に、本人確認に加えて同席記録、会話要約、第三者説明ログを残す新サービスを導入した。手数料は1件3万~8万円。全国銀行協会によると、2044年度の個人向け高額資金移動のうち、相続手続き外で親子・親族間に移った案件は件数ベースで前年度比28%増え、1件1000万円超の案件では4割弱が「将来介護・住替え・教育再訓練」を名目としている。
背景には、従来の贈与、貸付、家計支援の線引きが実務上あいまいになっている事情がある。親世代は80歳前後でも認知機能が保たれ、在職収入もある一方、疾病やフレイルの進行は個人差が大きい。銀行窓口では、本人の判断能力があるのか、家族の誘導がないか、将来の取消し争いに耐えられるかを、その場で整理する需要が急増した。都市銀行の法務担当者は「金融商品販売より家族内の事実確認の比重が高まっている」と話す。
新たな収益源として先行するのは地銀だ。静岡銀行は2月、家族信託や任意後見契約に至らない段階の相談を扱う『生活資産調整室』を全34拠点に設置した。七十七銀行も司法書士法人、地域包括支援センター、介護事業者と組み、高額送金前に標準質問票を用いる確認体制を始めた。預金残高の獲得競争が鈍るなか、地銀各社は資産運用より「争族予防」の事務収入を積み上げる構えだ。
金融庁も実務整備を急ぐ。3月に改訂した『高齢顧客取引管理指針』では、年齢一律ではなく就労状況、認知評価、同席者との利害関係、資金使途の継続性を総合判断する枠組みを明記した。録音・録画の常時保存はプライバシー負担が大きいため、要約記録と意思確認ハッシュの保存を原則とする。デジタル円口座では、一定額以上の親族間移転に対し、後日異議申立てがあった場合に第三者機関が検証できる共通ログ仕様の整備も進む。
もっとも、手数料化には反発もある。全国消費者団体連絡会は、家族支援を受ける側ほど費用負担が重く、資産の少ない世帯が informal な現金移動に戻る恐れがあると指摘する。弁護士の間でも、銀行が実質的な意思能力判定を担えば責任範囲が膨らむとの見方は強い。一方、現場では確認を省いた送金ほど後の紛争コストが大きいとの声が根強い。長寿化社会の金融は、金利や運用利回りより、家族関係をどこまで記録し証明できるかが競争力になりつつある。