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環境

国立公園、入域料より『排熱枠』管理 着用冷却機の普及で登山道運営再編

環境省、尾瀬・上高地で実証拡大 宿泊予約や山小屋電力契約に連動
2045年4月17日 5:00

尾瀬国立公園の鳩待峠口では今春、入山ゲート脇に新たな表示板が加わった。混雑人数でも降雨量でもない。「本日の歩道排熱余力、残り12%」。着用型冷却ベストや首部冷却端末の利用者が増え、登山道沿いの休憩所や山小屋での充電需要と局所排熱が無視できなくなったためだ。環境省は今月、尾瀬と中部山岳国立公園で、来訪者数ではなく時間帯ごとの排熱負荷を基準に利用調整する実証を始めた。

背景にあるのは、猛暑日の定着と高齢登山者の増加だ。日本山岳協会によると、主要28ルートの入山者に占める60歳以上の比率は2044年度に47%と、2020年代後半比で15ポイント上がった。一方、着用冷却機器の装着率は同年度に62%へ達した。従来は暑熱対策として推奨されてきたが、山小屋周辺でのバッテリー交換、沢沿い木道での結露排水、狭隘区間での滞留増加が植生劣化と保守費上昇を招いている。

環境省自然環境局がまとめた実証指針では、登山道ごとに「人体起因排熱」「機器放熱」「充電電力由来排熱」を合算した排熱係数を設定する。尾瀬の山ノ鼻―見晴間は1時間あたり1.8メガジュール、中部山岳の上高地―明神間は2.4メガジュールを上限の目安とする。予約サイトでは入域枠に加え、冷却機器の持ち込み台数と予備電池容量の申告を求める。虚偽申告には自然公園法に基づく過料ではなく、次回予約停止措置を適用する。

運営実務も変わる。帝国ホテル系の上高地ルート宿泊事業者は、今夏から宿泊予約に「夜間充電枠」を付け、1室あたり1.2キロワット時を超える分を追加料金とする。尾瀬地区の山小屋組合は東京電力リニューアブルパワーと、昼間の小水力発電と蓄電池を組み合わせた変動料金契約を締結した。従来の宿泊者数連動の電力契約では、同じ50人でも冷却機器装着率によって消費電力量が最大2.3倍ぶれ、採算管理が難しかったためだ。

用品業界では排熱そのものを抑える設計競争が始まった。モンベルは3月、冷却持続時間を2割削る代わりに筐体表面温度を平均3度下げた軽登山向けベストを発売した。ミズノは吸熱材を歩行停止時だけ作動させる制御モデルを投入し、環境省実証の優先予約対象に採用された。従来の売れ筋は『長時間冷える』ことだったが、今年は『登山道に熱を残さない』ことが販促文句に変わりつつある。

もっとも、利用者側には反発もある。日本シニア山行連盟は「排熱枠管理が事実上の高齢者排除になりかねない」として、年齢ではなく装備性能別の公平な運用を求める要望書を出した。一方で自然保護団体は、人数制限だけでは木道更新費や高山植物保全費を賄えないとして、排熱係数の高い装備に保全協力金を上乗せする案を支持する。環境省は秋までに尾瀬、上高地、立山室堂の3地域でデータを集め、26年度の自然公園利用平準化計画に反映させる方針だ。