入学願書、『家庭静穏時間』を任意記載 夜間送電制御で受験配慮に差
首都圏の私立中学・高校で、入学願書に家庭の「静穏時間」を任意記載する欄を設ける動きが広がっている。夜間は計算資源向け送電が優先され、集合住宅で給湯停止や蓄熱機器の切り替えが集中する地域では、住戸内の作動音や温熱変動が学習時間を左右しやすい。学校側は選抜基準そのものに使わないとする一方、試験時間帯の配慮や補習設計、入学後の端末貸与判断に活用し始めた。
東京都内で7校を運営する学校法人城東学園は2046年度入試要項で、居住形態、同居人数、主要使用言語に加え、午後8時から翌午前6時までの連続静穏時間を30分刻みで申告できる様式を導入した。記載は任意だが、説明会では「家庭責任では吸収しきれないインフラ差を把握するため」と説明する。神奈川、千葉を含む首都圏の私学団体によると、同様の様式を採る学校は今春時点で92校と、前年の31校から3倍に増えた。
背景には、学力差の説明変数が所得や通塾歴だけでは足りなくなった事情がある。文部科学省の学習環境調査では、都市部の中学受験層で「自宅の夜間学習を週3回以上中断した要因」として、住宅設備や共用機器の稼働音を挙げた世帯が28%に達した。とりわけ築20年以上の集合住宅では、深夜の温水再循環停止、蓄電池切り替え、共同配送ロッカーの冷却再起動が重なり、騒音水準が午後10時台に平均11デシベル上昇するとの民間調査もある。
学校側の対応は選抜実務の周辺に及ぶ。大阪の開明未来中は昨秋から、申告内容に応じて入試前1カ月の自習室開放枠を拡大し、利用者の38%が願書で静穏時間3時間未満と答えた家庭だった。名古屋市の公立進学重点校では、合格後の課題配信を深夜更新から早朝更新に改めた。端末一斉更新が家庭内の電力制御と競合し、通信速度が低下する事例が相次いだためだ。受験産業でも、模試の偏差値に加え「自宅継続学習係数」を示すサービスが広がっている。
制度面の整備も進む。文部科学省は今月、学校設置者向けに「学習機会確保のための家庭環境聴取ガイドライン」案を示し、静穏時間や通信安定時間の把握を、障害や言語以外の環境配慮項目として明記した。個人情報保護委員会は、これらの情報を合否判定の直接変数に用いないこと、保存期間を入学手続き後1年以内とすることを求める。自治体では横浜市が、受験生のいる低所得世帯を対象に、夜間の学習ブース利用券を月20時間分支給する実証を始めた。
波及先は教育にとどまらない。不動産各社はファミリー向け賃貸で、床荷重や停電保持時間に続き、共用設備の夜間停止予定と住戸内騒音予測を重要事項説明に盛り込み始めた。学習塾大手の栄光ネクストは、教室増設よりも午後9時以降の個別席提供に投資を振り向ける。受験競争の現場では、努力量や教材の差より前に、家庭が確保できる「静かな連続時間」が希少資源になりつつある。教育格差は所得格差だけでなく、インフラ運用格差として可視化され始めた。