2045年4月26日(水曜日)

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金融

生命保険、保険金より『介護中断補填』競う 家族ケアの空白、時間単位で価格化

老親見守りと就労継続の両立で新特約、休業日数でなく代替手配費を補償
2045年4月20日 5:00

朝の通勤時間帯、第一生命ホールディングスの都内営業拠点では、死亡保障ではなく「48時間代替手配」の説明に時間を割く社員が目立つ。契約者が病気や出張で親の見守りや通院同行を担えなくなった場合、提携事業者の家事アンドロイド、訪問介護員、移送サービスを組み合わせて穴を埋める特約だ。保険料は月額680円から。従来の生命保険が家計の喪失所得を埋める商品だったのに対し、足元では家族内で担っていたケア工程の中断をどう埋めるかが販売現場の主題になっている。

背景にあるのは、長寿化と単身化が同時進行するなかで広がる「半介護就労層」の増加だ。厚生労働省の就労生活統合調査によると、親族の見守り、服薬確認、受診同行などを週5時間以上担う就業者は2044年度に1482万人と、就業者全体の27%を占めた。うち65歳以上が39%を占める一方、40〜50代でも31%に達する。要介護認定に至らない前段階の支援需要が厚く、公的介護保険や傷病手当では埋めにくい生活上の空白が、民間保険の新たな収益源になっている。

商品設計も変わった。日本生命保険は3月、保険金の一時払いではなく、提携プラットフォーム経由で代替サービスを現物給付する「生活継続特約」を発売した。明治安田生命保険は見守り端末の異常通知回数や通院予約の集中度から翌月保険料を変動させる実証を始めた。東京海上日動あんしん生命は、契約者本人の入院より、介護を担う子世代の急病や海外出張を補償対象に据える。査定単位も1日単位から6時間単位へ細分化し、保険事故の定義が「死亡」「入院」から「家族機能の停止」に広がっている。

損害保険料率算出機構によると、介護中断補填型を含む生活継続系特約の新契約件数は2044年度に前年度比38%増の312万件となった。市場を押し上げるのは保険会社だけではない。セコム、SOMPOケア、パナソニック ホームズ子会社の住生活支援各社が、緊急訪問、施錠確認、食事搬送、服薬声かけを束ねた標準メニューを整備し、保険商品の裏側を支える。保険の販売競争が、介護・住宅・警備・物流をまたぐ外部委託網の整備競争に転じた格好だ。

もっとも、価格化が進むほど摩擦も増える。金融庁は今月、生活継続系保険の比較表示に関する監督指針案をまとめ、給付上限額だけでなく「初動到着時間」「代替不能業務の除外条件」「外国語対応の有無」の明示を求めた。見守りや通院同行は地域差が大きく、都市部と地方で実効性に差が出やすい。要介護認定を受けていない高齢者ほど実需が厚い半面、健康状態の把握が曖昧で逆選択を招きやすいとの指摘もある。

保険市場の重心が家計防衛から生活工程の維持に移ることは、企業の人事実務にも波及する。三井住友フィナンシャルグループや日立製作所は、団体保険の選択項目に介護中断補填を加え、休職抑制策として位置づけ始めた。人手不足下で企業が恐れるのは従業員の長期離脱より、突然の早退や断続欠勤による現場の不安定化だ。保険は事故後の補償商品から、就労可動率を維持するための調達手段へ性格を変えつつある。死亡率ではなく、家庭内の代替可能性が保険数理の新たな基礎データになり始めた。