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社会

火葬場、遺影より『本人確認導線』 多国籍高齢化で取り違え防止投資

生体情報の扱い限定、搬送・安置・収骨まで再設計
2045年4月20日 5:00

東京都板橋区の都立舟渡斎場では、収骨室の入口脇に従来なかった3色表示の導線ランプが並ぶ。遺族は到着時にデジタル円対応の受付端末で参列登録を済ませ、搬送袋に付いた使い切り識別タグと、故人の死亡届連動IDを照合する。遺影や戒名の掲示は簡素なままでも、安置室から火葬炉前、収骨室まで同一個体の確認経路を切らさない設計に改めた。斎場運営各社が競うのは式場の演出ではなく、取り違えを起こさない「本人確認導線」になってきた。

背景にあるのは、高齢単身者と外国人住民の増加で、遺族・搬送業者・寺院・自治体職員が故人と十分な面識を持たないケースの拡大だ。厚生労働省の委託で日本火葬行政協会がまとめた調査では、2044年度に全国の火葬場で発生した確認手順の逸脱は412件と、5年前の1.8倍になった。遺体の取り違えまで至った重大事案は17件にとどまるが、氏名表記の多言語化、再婚・非婚による祭祀主宰者の分散、顔貌変化を伴う長期療養が現場負荷を高めている。

このため首都圏と近畿圏の公営・民営斎場では、顔認証のような恒常的な生体照合ではなく、死亡診断書発行時に付与される医療機関連携IDと、搬送時の封緘タグ、遺族側の受領認証をつなぐ多段確認が広がる。富士通斎場システムズ、アルフレッサ・メモリアル物流、イオンライフは昨年から共通APIの運用を始め、自治体戸籍システムとは切り離した閉域接続で照合する。個人情報保護委員会は2月、死者情報の目的外利用を避けるため、画像保存期間を原則72時間以内とする運用指針を示した。

意外な波及先が、遺影写真と葬祭用品の市場だ。取り違え防止の主役が写真でなくなったことで、遺影は本人確認用から関係者共有用へ役割を変えつつある。アルバム大手のナカバヤシ系子会社やカメラのキタムラメモリアル事業は、正面顔の補正よりも、家族内で通称・母語表記・旧姓を併記できる「関係表示パネル」の受注を伸ばす。祭壇設計も大型遺影中心から、参列者が故人との接点を確認できる履歴表示型へ移り、印刷より電子表示機材の比率が上がっている。

自治体財政への影響も小さくない。横浜市と堺市は新年度予算で、火葬予約システム更新費とは別に、安置・搬送・収骨の導線管理設備へそれぞれ18億円、7億円を計上した。従来は火葬炉更新が中心だった施設整備が、ソフトウエア、封緘資材、多言語案内、立会室配置の見直しへ広がった。斎場の評価指標も処理件数や待機日数だけでは足りず、確認中断回数や再照合率を含めた運営監査を導入する自治体が増えている。

もっとも、効率化一辺倒ではない。宗教者団体や死生学研究者からは、確認工程の増加で別れの時間が機械的になるとの懸念が出る。これに対し、東京博善の担当者は「識別と儀礼を分離したことで、炉前の説明時間はむしろ平均6分短縮し、遺族の滞在負担は減った」と話す。人口減少下でも死亡数は2030年代後半から高止まりしており、葬送インフラは混雑対策だけでなく、面識の薄い社会で最後の取り違えを防ぐ制度産業へ変質し始めた。