中古家具、『手動退避距離』で値差 家庭アンドロイド普及、通路寸法が資産価値に
リユース大手のトレジャー・ファクトリーやゲオホールディングス系のセカンドストリートが、中古家具の査定で「手動退避距離」の表示を広げている。家庭用アンドロイドや見守り台車が住戸内を常時移動する家庭が増え、停電時や故障時に人が家具をどれだけ動かせるかが再販価格を左右し始めた。都内の中古家具売り場では、食器棚やソファに幅や材質と並んで「1人退避可」「2人必要」などの表示が付く。
背景にあるのは、住戸内の可動率を重視する生活設計への転換だ。経済産業省の住宅内機器実装調査によると、2044年度に家庭内移動機器を1台以上保有する世帯は全国で38%と、2030年代後半の2倍近くに増えた。一方、停電や通信遮断時に機器が廊下や出入口近くで停止し、家具の再配置が必要になった事例は年間92万件に達する。火災や急病時の避難遅延を防ぐ観点から、家具の重量そのものより、手作業で退避できる距離と所要時間が市場で問われている。
ニトリホールディングスは3月、下取り対象の収納家具について、脚部形状や床との摩擦係数、空荷時重量から算出する「手動移設指数」の社内基準を改定した。大塚家具再生事業を手がけるヤマダデンキも、再販品の一部で室内マップ連携用の寸法データを商品タグに付け始めた。査定現場では、従来は傷や色焼けが中心だった減額項目に「回転半径不足」「扉開放時の通路侵食率」が加わった。大型家具でも、分割搬出しやすい構造の製品は同等品より1〜2割高く取引される。
波及はメーカーの設計にも及ぶ。カリモク家具やアイリスオーヤマは、買い替え時の中古価値を意識し、工具なしで脚部や側板を外せる仕様を主力帯に拡大した。家具産業技術総合研究機構は今月、リユース向けに「非常時単独移設A〜C」の任意表示案をまとめた。新品販売での訴求点だった耐久性や意匠性に加え、退避容易性が二次流通価格を通じて一次市場にも逆流している。量販店の一部では、購入時に住戸の通路幅や待機室位置を登録し、将来の下取り価格を事前提示するサービスも始まった。
不動産市場との接続も見え始めた。三井不動産リアルティや東急リバブルでは、中古マンションの内覧資料に主要家具の退避動線例を付す案件が増えている。家具が動かせるかどうかは居住快適性だけでなく、保険料や管理規約順守にも関わるためだ。損保ジャパンは4月、住戸内避難阻害事故の料率算定で、可動家具比率と動線余白の実測値を試行反映した。家具の中古価格が住宅の売買説明に組み込まれる構図で、住まいと耐久消費財の査定が一体化しつつある。
もっとも、課題は残る。高齢単身世帯や外国人世帯では、家具を動かす前提自体が現実的でないケースも多い。業界団体は、手動退避距離の表示が事実上の購買排除にならないよう、配送時の再配置契約や自治体の緊急移設支援との併記を求める。中古市場での値付けは、人口減少下で住戸を柔軟に使い回すための現実解でもあるが、可動率を資産価値に直結させる設計は、居住弱者への追加負担を生みやすい。家具売買のルール整備は、住宅政策や防災政策と切り離せなくなっている。