町内会費、現金より『平時参加ログ』 外国人定住で防災名簿の前提変わる
東京都江東区の湾岸部にある大規模マンション群では、この春から自治会加入票の様式が変わった。氏名や住戸番号、会費の口座情報に加え、「平時参加ログ」の同意欄が新設された。防災訓練、資源回収、夜間見回り、翻訳補助、要配慮者宅への訪問確認などへの参加履歴を、住民アプリ上で蓄積する仕組みだ。現金徴収をやめた自治会は珍しくないが、会費より参加実績を重視する動きが首都圏の再開発地区で広がっている。
背景にあるのは、名簿上の加入率と実際の地域可動力の乖離だ。総務省の地域協働基盤調査によると、全国の自治会加入率は74%だが、年2回以上の防災訓練に実参加した住民は38%にとどまる。外国人住民比率が15%を超える都市部の新興住宅地では、この差がさらに大きい。多言語化で通知は届いても、誰が現場で通訳し、誰が高齢単身者の避難誘導を担えるかが見えにくい。自治会に求められる機能は、親睦から実働把握へ移った。
神奈川県川崎市は4月、町内会・自治会向けの「地域支援参加記録標準」指針をまとめた。防災、見守り、清掃、通訳、端末操作補助の5分野で参加履歴を統一記録し、災害時要員名簿や福祉協力員の選定に使えるようにする。参加回数だけでなく、対応言語、夜間参加可否、同行端末の有無も記録対象とした。市は個人評価への転用を禁じる一方、管理組合や学校、福祉事業者との共有を本人同意のもとで認める。地域活動データを生活インフラに接続する初の本格指針となる。
この変化は住宅市場や雇用にも波及し始めた。大和ハウス工業や三井不動産レジデンシャルは、分譲時の管理説明会で自治会の参加記録運用を説明する案件を増やしている。防災倉庫の面積や非常用電源だけでなく、平時の参加者層が物件の継続価値を左右するとの判断だ。企業側でも、イオンリテールや日本通運が地域訓練への従業員参加を就業規則上の地域貢献休暇に組み込み始めた。地域活動は私的善意ではなく、就労継続と事業継続計画を支える外部インフラになりつつある。
もっとも、参加ログの拡大には反発もある。大阪市内の外国人支援団体は「地域貢献の可視化が、事実上の同調圧力になる」と懸念する。高齢者団体からも、老化抑制治療の有無や就労状況で参加余力が異なるのに、一律比較が進むとの批判が出る。自治会側は、会費未納より無反応住戸の把握が重要だと説明するが、プライバシーと排除の境界はなお曖昧だ。地域共同体が縮小するなか、町内会は残るのではなく、機能を変えて生き残り始めた。