2045年4月26日(水曜日)

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エネルギー

物流倉庫、断熱材より『再起動順序』売る 送電制御下で賃料に差

計算資源優先の需給調整が常態化、冷暖房性能だけでは埋まらぬ稼働格差
2045年4月23日 5:00

千葉県野田市の広域配送拠点で、午前4時すぎに一部区画の搬送ラインが順次立ち上がった。建屋全体の送電は戻っているが、稼働できる順番は同じではない。先に起動したのは医薬品と給食向けを扱うA棟、最後まで止まったのは日用品を集約するC棟だった。倉庫運営大手の日本ロジリンクは今春から、空調能力や床荷重と並べて「再起動優先順位」をテナント契約書に明記し始めた。停電の有無ではなく、復電後に何分で出荷ラインを戻せるかが賃料差を生んでいる。

背景にあるのは、計算資源向け電力を優先する需給調整の定着だ。資源エネルギー庁によると、首都圏と中部圏では昨年度、需給逼迫時の短時間送電制御が平日ベースで平均月6.8回発生した。1回あたりの制御時間は24分と短いが、倉庫では復電後の昇降機点検、搬送ロボの位置再同期、温湿度復帰確認にさらに40〜90分を要する。とりわけ多層型施設では、電力が戻っても全設備を同時起動できず、事前に決めた立ち上げ順が出荷能力を左右する。

三井不動産ロジスティクスパークと日本GLPは2044年度下期から、主要施設で「復電時運転計画書」の標準化を進めた。テナントごとの必要温度帯、荷役締め時刻、従業員シフトを踏まえ、どの区画を先に動かすかを平時に契約へ織り込む。シービーアールイー総合研究所の調査では、首都圏の先進物流施設で再起動優先権付き区画の賃料は標準区画より坪月額で7〜12%高い。断熱性能が同等でも、優先復旧契約の有無で成約速度に2倍近い差が出ている。

影響は建物設計にも及ぶ。大和ハウス工業やESRは新設案件で、受変電設備を増強する代わりに、搬送ラインや充電床を系統別に細かく分離する設計へ切り替えた。全面稼働を守るより、重要区画だけを10分以内に再起動できる構成が投資効率で勝るためだ。倉庫内の通路幅や保管効率を多少犠牲にしても、復電後の起動競合を減らす方がテナントの離脱を防ぎやすい。ゼネコン各社は最近、断熱等級の上位仕様より「部分復旧等級」を前面に出して提案する。

中小荷主には逆風もある。優先順位を確保できないテナントは、納品時刻保証の違約金や、停止中在庫の再検品費を自ら抱えやすい。食品卸の一部では、倉庫賃料を抑える代わりに、得意先との契約を時間指定から日内幅指定へ改める動きが出た。国土交通省は今月、物流総合効率化法に基づく認定指針の見直し論点に、施設の省エネ性能だけでなく「復電後処理能力」の開示を盛り込んだ。環境性能偏重だった評価軸が、送電制御時代の業務継続性へ広がり始めた。

かつて物流不動産の競争力は高速道路への距離や天井高で測れた。2030年代後半以降は自動化率が加わり、足元ではさらに、止まった後にどの順で戻せるかが問われる。電力制約が常態になった日本で、倉庫は単なる保管箱ではなく、限られた再起動枠を配分するインフラになった。荷物を預かる契約から、止電後の優先時間を売る契約へ。物流賃料の内訳が静かに変わっている。