ペット不可物件、いまは『合成声制限』で差 会話端末常用、管理規約を揺らす
東京都江東区の湾岸部にある築12年の大規模マンションでは、この春の管理組合総会で「生活支援端末の夜間発話制限」が主要議題になった。対象は見守りや会話補助、服薬確認を担う据え置き型端末や小型移動端末で、午後10時から午前6時までの自動発話音量を45デシベル以下に抑える案だ。高齢単身世帯と外国人居住者の増加で、機器の音声案内は生活インフラになった半面、「人の声に近すぎて壁越しに気になる」との苦情が増えている。
背景には、孤独対策と認知機能維持を目的に会話型生活機器の常用が広がったことがある。文化庁の生活文化調査によると、首都圏の分譲・賃貸集合住宅で、定期的に合成音声で住民へ話しかける端末を保有する世帯は44%と、2030年代後半の2倍近くに増えた。単なる家電の通知音ではなく、雑談、服薬確認、遠隔家族の伝言読み上げまで担うため、近隣が受ける印象はペットの鳴き声や深夜テレビと異なる。管理会社各社は従来の騒音条項では処理しにくいとして、規約の細分化を急ぐ。
三井不動産レジデンシャルサービスと東急コミュニティーは4月、管理組合向けの新ひな型に「擬人音声機器運用条項」を盛り込んだ。夜間の連続発話時間、共用廊下への音漏れ、来訪者認証時の外部向け音声出力を個別に定義する内容で、犬猫の飼育規定とは別建てにしたのが特徴だ。音の大きさだけでなく、声質や反復頻度が不快感を左右するためだ。管理実務では、環境センサーの騒音記録に加え、発話ログの提出を求めるケースも出始めた。プライバシー侵害を懸念する住民も多く、合意形成は容易でない。
市場はすでに反応している。積水ハウス不動産や大東建託リーシングは、都市部の一部賃貸物件で「夜間発話モード対応」「壁内吸音等級V-3」などの表示を試行し、内見時に端末メーカー別の推奨設定を提示する。端末大手のパナソニック コネクトホーム、ソニーライフソリューションズ、韓国系のハンコムケアは、深夜帯に声を低刺激化する住宅共同生活モードを相次ぎ実装した。音量を下げるだけでは通知機能が落ちるため、光、振動、骨伝導パッドへ切り替える複合設計が主流になりつつある。
論点は騒音にとどまらない。自治体の福祉部門は、会話機器の夜間停止が高齢単身者の不安増幅や服薬忘れにつながると警戒する。一方、管理組合側は、擬人化された声が継続的に漏れることで、近隣住民の睡眠や心理的負担が増すと主張する。国土交通省は住宅性能表示制度の見直し論点に「生活機器音声の対隣戸配慮」を追加し、年内にも任意表示項目案を示す。住まいの快適性を左右する指標が、断熱や遮音に加え、機器の話し方そのものへ広がってきた。