スーパー総菜、味より『再加熱余白』で値決め 単身長寿世帯の食卓を再編
東京都板橋区の食品スーパー「ライフリンク中板橋店」では、夕方の値引き棚より先に、総菜売り場の上段から商品が消える。唐揚げ弁当や煮魚セットの値札には、カロリーや塩分に並び「再加熱余白7分」「推奨再配膳2回」などの表示がある。購入後すぐに食べる前提ではなく、深夜帰宅の家族や、見守り端末と連動した時間差配膳を前提にした設計だ。店長の佐伯亮氏は「同じ総菜でも、温め直して味や食感が崩れにくい商品から売れる」と話す。
日本惣菜協会の調査によると、主要都市圏の食品スーパー約1800店のうち、総菜に再加熱適性表示を導入した店舗は4月時点で61%と、2030年代後半の2割弱から急増した。背景には、65歳以上の単身・夫婦のみ世帯の増加に加え、在宅見守り機器を通じて食事時間が分散したことがある。総務省家計消費状況調査では、総菜の平均購入時刻と実食時刻の差は全国平均で2時間48分と、2030年代初頭より52分延びた。食品各社は調理直後の味ではなく、再加熱後の水分保持率や形状維持率を商品開発の主軸に据える。
変化は原材料調達にも及ぶ。イオンリテールは今春から、首都圏120店の総菜で、再加熱後の油分分離が少ない加工でんぷん配合衣を標準採用した。セブン&アイ・フードシステムズは持ち帰り総菜向けに、蒸気逃がし弁と低出力再加熱に対応した容器を導入し、返品率を従来比18%下げた。ニチレイフーズや味の素冷凍食品は、冷凍品で培った再加熱評価の指標をチルド総菜に移し、卸価格を『食後満足度』ではなく『再加熱歩留まり』に連動させる契約を増やしている。
売価の構造も変わった。従来は原材料高や人件費を転嫁した一律値上げが中心だったが、足元では再加熱余白の長い商品ほど高値が通る。三井住友カードと日経リサーチが3月に実施した購買分析では、同一価格帯の弁当でも『再加熱後の食感保証』表示がある商品は購買率が24%高く、値引き開始までの平均滞留時間も19分短い。食品スーパー各社は、消費期限ぎりぎりの売り切りより、二次喫食に耐える商品を定価で回転させる方が収益性が高いとみる。容器メーカーのエフピコでは、蒸気制御弁付き中食容器の出荷枚数が前年度比31%増えた。
一方、課題は小さくない。再加熱適性の高さを追うほど、製法が均質化し、地域ごとの味の個性が薄れるとの指摘がある。百貨店系食品売り場では、揚げたてや炊きたてを売りにしてきた専門店が苦戦し、阪急阪神百貨店は梅田本店で実演総菜の一部を『即食専用』として別区分表示に切り替えた。消費者庁も今月、再加熱表示が安全保証と誤認されないよう、推奨出力、保管条件、再加熱回数の表示指針案をまとめた。食の利便性を支える表示が、衛生責任の線引きも迫っている。
総菜売り場の競争軸が『できたて感』から『時間差耐性』へ移るのは、人口減少下の食卓の変化を映す。共食の減少、夜間就労の分散、見守り配膳の普及が重なり、同じ家庭でも食事は同じ時刻に食べるものではなくなった。売れ筋の変化は目立ちにくいが、食品製造、包装、価格表示、さらには厨房設備投資までを動かしている。中食市場は便利さを超え、生活時間のずれを吸収する社会インフラの色彩を強めている。